第13話 子供じみた考え方
俺にも作れと言ったのか。
何を? アクセサリーを。どういうことなんだ。
理解は出来ても、俺は頭の中が混乱していた。
神威嶽は神威嶽で、これでいいとばかりに腕を組んでふんぞり返っている。もう少し説明するべきじゃないか。
困惑していたが、誰も何も言わないのでなんとなく発言してみる。
「もしかして……自分が先に作ってもらいたくて、それで怒っていたわけじゃありませんよね」
そんな子供のわがままみたいなことを、皇帝ともあろう人間が言うわけない。
さすがにそれはないと笑おうとしたが、神威嶽が頷いているのを見て止めた。嘘だろ。嘘じゃないのか。
自分が先じゃないと拗ねるなんて、あまりに子供すぎる。呆れてものが言えない。いや、黙ったら駄目か。
こういう時は、どう答えるのが正解だろう。まあ、当たり障りなくか。
「俺が作ったものでよろしければ、陛下の分もご用意致します」
「ふん、最初からそう言えばいい」
偉そうな態度に剣持がピリついたが、また服の裾を引っ張れば収まった。
「……ちゃんと剣持の分も作るから」
フォローするように耳元で言う。そうすれば機嫌が良くなった。
「皇帝は何色が好きで、どういった形にしてほしいか希望はありますか?」
どちらかに偏ると、すぐ拗ねるので神威嶽にも尋ねる。
「そうだな。俺に合うものがいい。デザインは任せた」
「……俺に全て任せていいのですか?」
好きにしていいという言葉は魅力的だけど、俺を信用しているのか。そんなわけない。
作らせておいて文句を言う、高度な嫌がらせでもしようとしている。絶対にそうだと決めつけたが、神威嶽の返答を聞いて分からなくなった。
「お前はセンスがいいからな」
「は、はあ……」
「信じているのはセンスだけだ。お前自身のことは、なんとも思ってないから勘違いするなよ」
「はあ……」
付け足された言葉に、何を当たり前のことをわざわざ言うのだと、曖昧に頷いた。
そうすれば、鼻を鳴らしてくる。
「普通は頼んでも作れないんだから、光栄に思えよ」
別に俺は作りたいと思ってない。喉まで言葉が出かかったけど、余計なトラブルになるだけだから飲み込んだ。
「はい、ありがとうございます。精一杯作りますね」
とりあえずお世辞を言っておいた。そうすれば満足そうになったから、これが正解の対応なのだ。慣れれば、神路を相手にするよりは上手くあしらえる気がする。
「完成したら、すぐに届けに来いよ」
「かしこまりました」
それだけ言うと、神威嶽は書庫から出て行く。
「……一体、何しに来たんだ」
あっちこそ、書庫に来た理由が不明だった。しかも護衛も引き連れず。今頃騒ぎになっていることだろう。どこまでも人騒がせである。
思わずと言った感じで文句を零せば、剣持がしゃがむ。その体は少し震えていて、必死に守ってくれていたが、それでも恐怖を感じていたのだと察する。
「剣持、大丈夫か?」
「……だい、じょうぶです」
そっと肩に触れて、優しく声をかける。頼もしい姿は、全て俺を守るためだった。俺のために、怖くても神威嶽に立ち向かってくれた。
その事実に、胸がいっぱいになる。全然大丈夫ではなさそうな返事をして、立ち上がろうとするから手で制する。
「もう少し落ち着いてからでいい。……よく頑張った」
労わるために肩を軽く叩き、そして言葉でも頑張ったと伝えた。褒める時は褒める。そうしないと、俺に守る価値が無くなる。一生終わらせられないとしても、いい関係でいたかった。
「いえ、まだまだです。こんなにも震えてしまっている。もっと精進します」
そんなことをしなくてもいいと言うのは、逆に剣持の能力を信じていないみたいになる。だからここでの正解は、
「ああ、でも無理はするなよ」
応援の言葉をかけることだ。
「はい」
嬉しそうにはにかむ剣持に、間違っていなかったと安心する。
「そういえば、陛下のせいでうやむやになったけど、剣持はどういったものを作ってほしい?」
「リクエストをするなんて、恐れ多いことは出来ません」
「そんなこと言わないで。好きな色でもなんでもいい。いつでも身につけてもらいたいから、好きなものを作りたいんだ」
予想通り遠慮してくるから、俺は言わないと許さないというオーラを出した。
そうすれば困った表情をしながらも、考え始めてくれる。
「……そうですね。デザインなどは、俺も詳しくないので考えつきませんが……色の指定が出来るのであれば、銀細工で紫色がいいです」
「……銀細工で紫色か」
剣持の見た目は茶色の髪と瞳という、この世界ではごく一般的なものだ。
銀や紫色が好きなのか。何となく親近感のわく組み合わせだ。その理由はすぐに分かった。
「もしかして、俺の髪と瞳の色だったりして。…って、そんなわけないよな……」
まさか俺をイメージしたわけがない。そう笑い飛ばそうとしたのに、剣持が照れたように視線をそむける。
「……いつでも聖様を思い出せるように、身につけたいです」
そう言われてしまえば、俺も要望を受け入れて作るしかなかった。
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