第9話 情報を集める
光と登場人物に関して、新たな情報が増えた。
能力や代償、その無効化。
小説には書かれていなかったが、新たな設定なのか。
俺がこうして物語に介入したせいで歪みが生じ、変化として現れてしまった。そういうことなのか。分からない。
あれから、神路の態度がほんの少しだけやわらかくなったような気がする。
ブローチを毎日つけているのも、前までの様子から考えれば大きな一歩だ。
でも、別に好感度をあげようとしているわけではないから、喜ぶ話でもない。
俺は引きずるタイプだった。
商人を紹介してくれると約束してくれたので、俺は次の商品作りに着手することにした。
神路に作ったのは、金額など考えずに金細工や宝石を使ったが、貴族を相手にするとしたらどのぐらいのところまで使っていいものなのか。考えものだ。
とにかく相場を知りたい。
そういうわけで、この世界について知るために書庫へと向かっていた。
もっと早くに来るべきだったのかもしれないけど、他にやることが山積みで後回しにしていた。
でもさすがに、知らないことが多すぎる。これから上手く生活していくためにも、情報はたくさん持っているべきだ。
神殿には、とても立派な書庫がある。
献金と国からの予算で、潤っている証だ。
こういうところは、私利私欲しか考えていない腐った人間がいて、自分達の都合のいいように金を動かしている。そう思われそうだが、驚いたことに全く不正はないらしい。
無いというより、無くなった。というのが正しい言い方だ。
少し前まで当たり前だった悪習を、神路が根幹から叩き潰した。長くその地位にしがみついていた狸爺達を、全員追い出した。
何を考えているか分からない怪しさがあるけど、実はまともな思考を持ち合わせている。
その他にも、神路は大きな改革を行った。
庶民が神殿で祈りを捧げられるように、中に入る許可を出したのだ。
金を巻き上げていたくせに、神聖な場所だと言って、一切の立ち入りを禁じていた。
そのため庶民の人達は、村にある小さくてボロボロな教会でしか祈りを捧げられなかった。どんなに中に入りたいと頼んでも、その要求は突っぱねられた。
でも今は違う。
庶民も神殿で祈りを捧げられるようになった。時間が決まっているが、それでも入れるようになっただけでも凄いことだ。
中に入れるようにしたことで、貴族や神殿で働く一部の人から反対されたが、庶民用に新しく建物を造ったので、反対意見は時間が経つにつれて小さくなっていった。
「そう考えると、凄いことをしているよな」
いくら歴代で最高の能力があるとはいえ、変えていくのは簡単なことではなかったはずだ。
それを短期間に、ここまで改善したのだから凄い。
さすがメインヒーローの一人。
これで、もっと優しさを持っていれば。俺に優しさを見せてくれれば良かったのに。
いや、優しいだけではどうにもならないことが多すぎるのか。それこそ格好の獲物にされる。
「……凄いな」
書庫に辿りついた俺は、あまりの量の多さに圧倒されていた。
広いのも大きいのも知っていたけど、これは予想以上だ。ここにある本を全て読み終えた人なんて、絶対にいない。そう思うぐらいだった。
「……ここから、探すのか」
上下左右埋めつくされた本。
最初は量に驚いていたが、目的の本をこの中から見つけださなければいけない事実にげんなりとする。
自動検索システムでもあればいいのに。
まずどこから探したものかと、途方も無い作業の予感にため息を吐いた。
とりあえず今日は、一番知りたいこと。
宝石や貴金属の相場と、流行りのデザイン。あとは、能力に対する代償についての本を探そう。
俺はげんなりとしたまま、とりあえず中に入った。
部屋からずっとついてきている護衛は、何も言わずに後ろに控えている。手伝ってくれる気配は全くない。
そういえば、世話係は定期的に入れ替わるけど、護衛はローテーションはしていてもメンバーが変わることはない。
代理とはいえ、今のところは大事な存在だから、守るための護衛もある程度は腕の立つ人だった。
そう簡単に、入れ替えられるものでもない。
「あの」
「……はい、なんでしょう」
声をかけると、ここには二人しかいないのに返事に間があった。自分が話しかけられるとは、全く思っていなかったみたいに。
「あなたの、名前を教えてもらえませんか」
一応守ってくれているのだ。
名前を知っていないのは、何かと不便である。
もし前に自己紹介されているのだとしたら申し訳ないが、もう一度教えてもらおう。
俺としては、そんな軽い気持ちで聞いたのだけど、向こうにとってはかなりの衝撃だったらしい。
信じられないものを見るような目を向けてくるから、なにかまずいことでも言ってしまったのかと、俺も心配になってきた。
「あの……意味が分かって、おっしゃっていますか」
分からないと言ったら、どうなるのだろうか。
また俺の知らない周知の事実があるらしく、簡単に頷いたら取り返しのつかないことになりそうで、下手に発言が出来なくなった。
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