第5話 アクセサリー作り
頭じゃなく、体が覚えているみたいで、アクセサリー作りは順調だった。
神路が望むのは、普段使いできるものだ。それは最高責任者だからこそ、難しい注文でもあった。
下手なものは作れない。プレッシャーになりそうだが、俺にとっては逆にやる気を出させた。腕の見せどころだ。
熱中しすぎて、ついつい他のことを疎かにしてしまった。
「……あなたの存在意義を考えてください」
でも徹夜していたら、神路に裏のある笑顔で注意されたので、ほどほどにするようになった。怖いとは感じなかったけど、光としての仕事をきちんとこなさなければ、すぐにでも取り上げられる。それは絶対に嫌だった。
せっかく楽しいと思えるものが見つかったのに。取り上げられたら、二度とやらせてもらない。そうなれば、安泰の未来が遠ざかる。
早くたくさん作りたい気持ちを抑え、暇な時間だけ製作するようになった。進行スピードが遅くなったけど、でも仕方ない。
集中していれば、監視されていることがどうでもよくなるぐらい集中出来て、やりたいと言って良かったと自分の選択を自分で褒めた。
アクセサリー作りに意識が向いているおかげか、神威嶽に対して正解の対応が出来ているようだ。何か言いたげな顔をする時はあるけど、前みたいに腕を掴んできたりすることはない。
俺の気のせいかもしれないけど、神路がさりげなく盾になってくれているみたいにも思えた。いや、きっと気のせいだ。そんな優しさを見せるわけがない。
邪魔が入らなかったおかげで、時間はかかったけど何とか形になった。慣れていけば、もっと早く作れるようになるはずだ。そうすれば大量生産、販売も可能になる。
安価で売るより、まずは高クオリティ、高価格でやってみよう。まだ作るのに時間がかかるから、丁寧に作っていい品物だと広める。買ってもらえなければ、作ったところで無駄になるだけだ。
そうなると、神路がつけてくれるのはかなりの宣伝効果になるかもしれない。神殿御用達なんて、素晴らしい肩書きじゃないか。
「気に入ってくれるかな?」
要望は聞いて、イメージ通りに作れたけど、気に入ってくれるとは限らない。もし違うと言われたら、売る許可をもらえばいい。
「渡しに行くか。……いや、待っていれば来るか」
ちょうど会いに来るついでに、完成したこれを渡そう。
そのまま持っているのもどうかと考え、俺は近くにあった布に包む。そうそう壊れないけど、念の為だ。
「……入ってもよろしいですか?」
次のデザインを考えていれば、扉がノックされて神路の声が聞こえてきた。監視カメラがあるのだから俺が何をしているのか分かっているのに、そういうところは礼儀正しい。
来ることはないだろうけど、神威嶽だったら許可を取る前にいきなり入ってくる。
いくら城から近いとはいえ、俺のところに訪ねてくるはずがない。嫌そうな顔を思い出し、笑ってしまう。
「どうぞ、入ってください」
笑いながら許可を出せば、ゆっくりと扉が開いた。
入ってきた神路は、どこか表情が固い。
自分からここに毎日来ると勝手に決めたのに、面倒にでもなったのだろうか。それなら、いつでも終わらせて構わないのだけど。
でも今日は、俺の方も用事があるし仕方ない。
来ると言われた当初は、何をされるのかと緊張したが、蓋を開けてみればなんてことはない。ただ、俺が部屋にいるのを確認して、挨拶して帰る。
滞在時間は一分にも満たない。
これなら、どうせ監視しているのだから意味が無い気がする。たぶん、遠回しにプレッシャーをかけているのだろう。そのためだけに、わざわざご苦労なことである。
「……おはようございます。では、私はこれで」
「ちょ、ちょっと待ってください」
顔を見て挨拶をすると、いつものようにすぐに帰ろうとしたので、慌てて引き止めた。
「どうしましたか?」
完成したのは分かっているはずなのに、あくまで監視カメラの存在を知られないようにしている。
俺も、正確に何台設置されているのかは知らない。部屋の全てを見られていると、一応覚悟していた。
「……これ」
白々しくとぼける神路に近づき、俺は完成したアクセサリーを見せる。
それはブローチだった。金細工に神路の瞳に似た色の宝石を合わせている。細工の部分は、飛び立つ鳥の形をしていて、空に向かっている様子を表現した。
普段つけていても、恥ずかしくない仕上がりになったと自負できる。
「どうですか?」
反応を示さないから、こちらから聞いてみる。こんなのつけられるかと言われたら、すぐにでも手を引っ込めよう。
「これを、あなたが作ったんですか」
「はい」
俺以外誰がいるんだ。ちゃんと作っているのを見ていただろう。まさか作らせたなんて、ありえない話をしてくるのか。さすがに酷い。いや、それぐらい上手く出来ているということだから、喜べばいいのか。
驚いている様子の神路は、まだ見ているだけで手に取ろうともしない。ずっと見ているつもりか。そろそろ手が疲れてきた。
俺は笑顔をキープしつつ、早く何とかしろと念を送った。それが通じたのか、神路がまた口を開く。
「……私に、これを作って……懐柔でもするつもりですか。言ったでしょう。私はあなたに好意を抱かない。ただの代わりですから」
あまりの言葉に、一瞬思考が停止した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます