第4話 これからの計画
小説では、主人公は周囲の人間に盲目的に愛される。俺は例外として。
その中でも、メインヒーローという枠組みがあった。
神路、神威嶽とあと一人。
その人とは会う機会がないし、別に気にしなくてもいいだろう。向こうも俺に興味なんて抱かないはずだ。主人公が来るまで、一度も顔を合わさない可能性もある。
そういうわけで、目下のところ警戒する必要があるのは、神路と神威嶽の二人だ。
この二人の対処法としては、とにかく機嫌を損ねない。最低限の関わりで済ませる。今のところ、全く上手くいっていないが。
「……どうするべきか」
俺は神殿の庭で、小さく息を吐いた。
ここなら監視カメラもないし、護衛にも小声ならば独り言を聞かれない。気づかれないようにさりげなく、服の袖からメモ用紙を取りだした。
「まずは……お役目が終わった後の、生活をどうするかだよな」
賠償金をもらえるとしても、それで一生暮らせるわけではない。働ければいいが、神殿から追い出されて、いい就職先があるのかどうかが分からない。
それなら、追い出される前にある程度貯めておくべきだ。
「家とか、何をするにしても金がかかるよな」
ありすぎるぐらいに貯めなければ、命が助かったとしても結局変わらない。神殿では監視されているとはいえ、全ての世話をしてもらえる。でも追い出された後は、一人で生活するしかない。
「知り合いでも作れればいいんだけどな」
相談出来るような相手がいれば、少しは生活するのも楽になる。でも、それを作るのが難しかった。
世話係は入れ替わりが激しいし、神殿に来る人は欲の塊か、逆に欲のない人間だ。
俺が話しかけたところで、すぐに神路に情報が伝わる。
「いっそ、開き直るか?」
代理だと知っているのだから、本物が現れた後の生活のためだと言えば、見逃してもらえるんじゃないか。主人公に対し攻撃しなければ、逮捕されることもない。
居残る気はないと、すぐに出て行く姿勢を見せた方が、向こうにとって喜ばしいだろう。
「内職でもさせてくれないかな」
前世の時にそういう仕事に携わっていたのか、趣味でやっていたのか、手先が器用なのだ。そして材料さえあれば、アクセサリーを作れる。
デザイン案も頭に浮かんでいて、考えごとをしながらメモに書き込んでいく。
最初は上手くいくか分からないから、小さなものから作るのもいいかもしれない。この世界では、どんなものが人気なのだろう。
出来れば高く売りたい。材料費だってかかるから、利益は出したかった。でも、まずは買ってもらわなければいけない。流通させるには、結局神路の力が必要になるか。
「……どう言えば、いいだろう」
「いかがなさいましたか?」
「びっ」
くりした。急に後ろから話しかけないでほしい。心臓が止まるかと思うぐらい驚いて、変な声を出しながら振り返った。
「……神路様」
そこには神路が立っていて、座っていた俺を見下ろしている。逆光で顔が見えない。だからどんな表情をしているか分からず、俺は後ろに体を引いてしまった。
「このようなところで、何をなさっているのですか?」
このようなところと言うが、別に変な場所にいるわけじゃない。きちんと手入れされた芝生に座り、護衛にもしっかりと姿が見える位置にいた。
「少し考えごとを」
「考えごとなら、部屋でも良かったでしょう。ここだと何が起こるか分かりません。部屋の方が安全です」
それに監視もできる。心の中で付け足して、俺はヘラりと笑った。
「考えごとをするには外が良くて。ほら、風が気持ちいいでしょう」
「確かにそうですね。……それで、何に困っているのですか」
「えーっと」
ちょうどいいタイミングだ。わざわざ場を設けるより、今言うべきだろう。
「……アクセサリーを作る許可がほしいんです」
「アクセサリー?」
「はい。ピアスやイヤリングなどを作りたくて」
そう言えば、難しい顔をして黙ってしまう。
駄目か。俺の勝手な行動を許してくれないのか。アクセサリーぐらいならいいだろうと、期待するべきじゃなかった。
「……それは、デザインですか?」
断られる覚悟を決めていたから、すぐに反応できなかった。でも手に持っているメモについて言われているのだと分かり、それを神路に差し出す。
「はい。こういうものを作ってみたくて」
簡単なデザイン案だけど、短時間で書いたにしてはいい出来だろう。じっくりと見ているのは、気に入ってくれたからだと思いたい。
「材料を用意してもらえないでしょうか……えっと、試しに作りたくて。駄目、ですか」
「これは……」
「はい?」
「これを、私にも作ってもらえないでしょうか」
「え?」
作る。作るというのは、そのままの意味でいいのだろうか。
俺は一瞬固まって、でも今度はすぐに回復した。
「は、はい。どのデザインがいいですか。言ってもらえれば、神路様のために作ります」
気に入ってもらえれば、アクセサリー作りを本格的にできる。その出来が良ければ、売りたいといっても反対しないだろう。
「それなら、ぜひ作ってください。材料もすぐに用意させます」
どういう気まぐれかは知らないが、未来に向けていい一歩となった。俺は内心でガッツポーズしながら、神路の好みを聞き出した。
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