私の幽霊

「ほら、ここをよーく見てください」

それに気づいた客から順に悲鳴が起こり、数秒も経たないうちに大絶叫に代わっていた。


「すごいですね、これは」

司会の口調から興奮ぶりが伝わる。その滝の前で取られた記念写真には確かに人の顔らしきのもが映っていた。


「ここまではっきりと現れるものも珍しいですね。でも心配は入りません、幽霊っていうのは基本、人に危害を加えることはないんです。ただ映ってしまっただけなので」

「ではお祓いなどは必要ないのでしょうか」

「気持ちの問題ですね。気持ち悪いと思うなら形だけでも受けた方がいいでしょう」


持ち主の安心した顔が映される。

「いやー害がなくてよかったです。田島先生ありがとうございました」

「ありがとうございました」

田島は20代とも50代とも見える顔で一礼をし、番組が終わった。



リビングのテレビからぼーっと番組を眺めていた私はなんとなくアルバムを開く。

そこには小学生とは思えない鉄仮面の私と、変に笑おうとして顔がこわばっている田島の顔があった。


田島はどういう経緯かしらないが、ここ最近心霊アドバイザーとしてテレビに出るようになった。

当初、その姿をテレビで見た時は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

田島は中学校までは一緒だったが、高校からは別の高校に行ったのでそれ以来。まさか画面越しの再会だなんて思わなかった。


「ただいまー」

「おかえり」

「ちょっとこれ、冷蔵庫に入れておいてくれない?」

「あーい」

母が買ってきた食材を冷蔵庫に詰める。

母は手を洗い、仏壇に手を合わせて父に挨拶をした。今日、起きてから挨拶をしていなかったので、食材をぱっぱと詰めて隣で手を合わせる。


母はキッチンへと立ち上がった。私は手を合わせながら小学校の時の出来事を思い出す。

ゆうれいはいたのだろうか。


もしかしたら田島の言っていたことは本当なのかもしれない。もしそうだとしたら、彼は辛かっただろう。自分の言っていることが誰にも信じてもらえないのだから。

今の彼は何を思っているのだろうか。


自分が信じていた、その存在を知っていた幽霊を皆が本気かどうかわからないが、少なくとも反応してくれることは嬉しいのだろうか。


仏壇の中央にある写真を見る。


死んだ人には会えない。それは小学校の時に学んだことだ。

でも、もしもう一度会えるなら、幽霊として近くにいるのなら。



キッチンへと立ち上がり、冷蔵庫からお茶を出す。

「ねぇ、お母さん」

「何?」

「私、ゆうれいっていると思うんだけど」

母は一度もフライパンから目を離すことなく言った。

「あんた、どうしたの?」

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田島のゆうれい 丸膝玲吾 @najuna

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