掃除の時間

田島のゆうれい騒ぎから1ヶ月、クラスで不可解なことが起こるようになった。


誰も食べてないのにおかわりの揚げパンが消えたり、朝来たら高橋くんの机がひっくり返っていたり、飼っているメダカの水槽に黒い大きなシミができていたり。


そして毎度開かれる緊急HRで、毎回田島は「ゆうれいを見た」と手を挙げた。



最初は面白がっていた男子連中も繰り返すうちに反応は鈍くなり、イラつき始めた。私も同じだ。


「お前、ずっと適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

「調子に乗んな」

「嘘ばっか言ってんじゃねぇよ」


それでも田島は手を挙げ続けた。


田島が手を挙げるたびに私の隣に一斉に視線が向く。たくさんの顔がこちらに目がけて振り返る様はいつもどきっとする。その原因を作っている張本人である田島に私の苛立ちも強まっていった。




「誰か高瀬さんのリコーダーを知りませんか?」


立て続けにクラスで問題が起こり先生も疲れているように見える。


「知らなかったら大丈夫なんだけど、もし何か知っていることがあったら先生に後で教えてね。」

「せっ先生!」

それが決まりのように田島は手を挙げた。


「田島君ありがとう。また幽霊を見たの?」

「はい、また幽霊が手提げからリコーダーをスッて...」

もう興味を無くしたのか、周りはただその話が終わるのを待っていた。




「ねぇ、もう手を上げるのやめたら?」

同じところを何回も掃いている田島はキョトンとしていた。


「どうせ、何回行っても先生は信じないでしょ。というか信じてる人誰もいないし。」

「でも見たから...」

「正直信じられないんだよね、田島のこと。何考えてるかわからないし、家で何してるかわからないし。」

「うん...」


項垂れる田島を見てイラッとくる。なぜこいつは被害者ヅラをしてんだ?何をしても気に食わない。なぜイライラするかわからない。最初はこんな気持ちにならなかったのに。


「じゃぁわかったらいいよ。掃除しよ。」

田島の手は止まっていた。

「何してんの?掃除おわんないよ」

「なんで...」

「は?」

「幽霊はいるのに、なんで...」

田島の目から大きな粒が頬を伝って床にはじけた。


もう我慢の限界だった。


「だから幽霊なんていねぇだろうが!」

「ふぇぇ?」

あぁムカつく。なんだふぇぇって。

「幽霊はいないの!みんな知ってんの!お前が嘘つくからだろ。何回同じことしてんだよ!」

「でも見たから!」

「お前の妄想だろうが!」


田島の涙が止まらなくなっていく。それでも私は田島を避難する言葉を止めようとしなかった。

「お前が言い始めて、それでみんなが信じなかったら被害者ヅラってわけわかんない。見てないなら見てないって言えよ」

「...見たもん」

「じゃあ証拠を持って来い!」



この死闘を持って私と田島の関係は完全に切れた。授業中、掃除の時間、お互い何も喋ることはなくなった。


それでも田島は相変わらず幽霊を見ていた。














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