第31話 妻体験実習レポート ノアナ・シュリミア

【わたしは、春休みに、とある人の妻体験をしました。

 どうして妻体験をしたかというと、他にやることがなくて困っていたからです。

 天職がたくさんある人が、うらやましいです。

 わたしには、一個しかありません。がっかりです。

 でも、妻体験をして、思いました。

 たとえ一個だとしても、その一個が大当たりってあるんだなって。

 わたしの住んでいた集合アパートには、いろんな人がいました。

 奥さんにぼうりょくをふるう人。こどもを置いていなくなったお母さん。けんかばかりする家族。人をこまらせておもしろがっている家族。人のものを勝手にとっていく人。

 わたしは、結婚するなら絶対に、やさしい人がいいって思っていました。

 家族になったことをコウカイするのは、いやだ。わたしの両親みたいに、仲のいい夫婦になりたい。

 でも、天職検査ででた人は、意地悪で、嫌味で、いんしつで、ださくて、つまらない数学を教えている。最悪です。

 でも、お金に困っていたので、いっしょに住んでみました。

 最初は、口うるさい人でした。でも火事を全部やってくれる、火事能力の高いすごい夫です。わたしは、世界一楽ちんな妻。

 そのうちに、あれ? と思いました。

 もしかして、本当は意地悪じゃない?

 嫌味のうしろには、やさしさがある?

 ルーチェが、レポート用紙をうめるためにカイギョウしすぎだ、って言っています。

 ルーチェがのぞこうとしてくるので、かくしながら書いています。

 ルーチェが、トイレに行きました。

 よし! 

 今のうちに書いちゃうぞ!!

 カイギョウもりもり!!

 妻体験はおわったけれど、今もその人といっしょに住んでいます。

 お試し夫婦を続けたいって、わたしが、言ったからです。というか、言わされた。本当はその人に、お試し夫婦を続けたいって言ってもらいたかったのに!

 がっかり。

 でも、その人といっしょにいられることになってよかたです。

 筋肉大好きミーナがなにを書いてるの? って聞いてきたので、新婚夫婦ってなにをしたらいいの? と聞いてみました。

 きゃあーーっ!!

 ミーナはオトナです。さすが、カレシがとぎれないだけある!

 ぜんねんれい対応でお願いしますとたのんだら、行ってきますのキス、だそうです。

 わははははー。

 ルーチェが帰ってきました。

 ルーチェとミーナで、手をつないでその指先にキスされるってきゃあーってなるね。って盛りあがっています。

 あー……。

 先生はどう思いますか? 

 わたしはツメが小さいのが悩みです。指を見られるのは好きじゃない。指先のキス。あこがれるけれど、はずかしくて無理。

 あ、そうそう。わたしね、今日からユウトウセイになります。見ててください。がんばっちょうんだから! えっへん!

 最初は先生に嫌われたくないから、ユウトウセイになりたいって思った。でも、今はちがう。

 わたしね、先生が超大金持ちで、ユガリノスグループのえらい人って知ったとき、遠い人に思った。ダメな自分がはずかしくなった。

 わたしは明るくて元気だけど、「ノアナちゃんってポンコツだね」「なんにもできない」「バカすぎる」と言われるのは、やっぱり悲しい。そういうとき、「えへへ、そうなんだ」って笑ちゃう自分もどうかと思う。

 どうせわたし、できないもん!

 ってあきらめていた。

 でも、あきらめないことにする。先生の隣を歩ける人になりたい。

 ミーナがレンアイコウギしている。

 なになに?

 押すばかりだと男は逃げる。重たい女はいやがられる。恋にハマったものの負け。

 ガーン!!!!!

 わたしべつに先生のことなんてどうでもいいしぃ。好きくないし。いっしょに住んでいるのは楽ちんだからだし。隣を歩くっていうのは、散歩をするときの話だし。ユウトウセイになりたいのは、自分のためだし。総合的に、先生の妻って、なんだかねぇ。

 だからゴカイしないでください。

 わたしは押していないし、重くない女だし、恋にハマっていません。

 それにしても、レポート用紙がうまらない。

 どうしよう。

 ああ、そうだった!

 おもしろいことを書こうと思っていたんだ。

 あたらしいノアナ語を考えました。

『あっかんべーのベロベロベーコン!』

 どう? 

 ルーチェとミーナにひろうしたら、アホって言われました。

 ノアナ辞典から消すことにします。さようなら。 

 あと、ご報告。わたしの応援リストに先生を入れたよ。応援リストには今のところ、先生とルーチェとノアナのうえんの野菜しか入っていません。

 応援リストには、全力で守りたい大切なものを入れています。

 だからね。先生が嫌味を言いすぎて学校中の生徒から嫌われても、大丈夫だよ。わたしは味方だからね。

 先生が全世界から嫌われても、わたしは嫌いにならないよ。

 えーっと、あとは、なにを書こうかな?

 ミーナが、読み返してみたら? 書き足りないことが見つかるよってアドバイスをくれました。 

 さすが副委員長!

 読み返してみました。

 あわわわわわーーーっ!!

 なんで、キスのことを書いちゃったんだろう!!

 ぜったいに後で、なんで書いたんだーってコウカイするやつです。

 消す!! あ、だめだ。消しゴム忘れた。

 ルーチェに貸してって頼んだら、「ユウトウセイは忘れものしませーん。わたしは忘れものばかりするレットウセイです。って言ったら、貸す」だって。

 絶対に言わない! わたし、ユウトウセイなんだから!!

 ミーナに貸してもらおうと思ったら、トリコゼーノと帰っちゃった。

 えぇ! ミーナの新しいカレシって勇者くんなの⁉︎ びっくり。

 ルーチェが帰るって。待っているのたいくつだって。

 急いで書かないと!!

 二年生はがんばる。ちょんと勉強する。ちこくしない。コウソクを守る。授業中寝ない。

 天職の相手、先生でよかたって思う。

 あ、うそうそ。うそついた。

 本当はね。ユウトウセイになる自信がない。だって、死ぬほど勉強が嫌いだし、朝起きられないし、スカート長くしたくないし、授業聞いていると眠くなる。

 だから、やれる範囲のユウトウセイってことでいいよね。

 略して、やれはんユウトウセイ。ダメかなぁ?

 あともうひとつ、うそついた。

 キスのこと、わざと書いた。指先のキス、いいなって思ったから。

 ネイルのはえる、キレイなツメになる魔法をかけてください。お願いします。 

 終わり】

 

 




 

 

 

 

 

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