第7話 お盆

───タクマくんは今、どうしているだろうか。


8月13日。死者の霊がこの世に帰ってくる日。


私は毎年、あの図書館に帰っている。


同じ高さに生えそろった金色の小麦がとてもきれいだ。


生前からあまり外には出なかったので、新鮮な気持ちで眺める。


指揮者のいない合唱のような蝉の声はうるさいけど、なかなか風情がある村だったんだなあ。


そんなことを考えているうちに、図書館に辿り着く。


───そろそろ本は寄贈しただろうか。掃除はしてくれているみたいだけど・・・


中に入ると、青年の後ろ姿が目に入る。


───タクマくんだ。


顔は見えないがピンときた。後ろを向いていても面影を感じ取れる。


───大きくなったなあ。すっかり私の背も抜かして・・・


タクマくんに近づいた時、それに気づいた。


パチパチと何かがはぜる音。彼の足元を見ると、炎が上がっている。


その中に、辛うじて文字のようなものを見つける。


──────本の表紙。


気づいた時には動いていた。


・・・高い視点。憑依には成功したみたいだ。


───早くやめさせないと・・・!


「───捕まえた。」


突然、真後ろから声が聞こえる。


───え・・・!?


「何もできないでしょ。その人形、特別製なんだ。」


後ろから歩いてきた青年は、私の前に立つ。


「やあ、久しぶり。詩乃さん。俺に聞こえるようにしゃべっても大丈夫だよ。もう

詩乃さんが連れていかれることはないから。」


「・・・ど、どういうこと?」


目の前の顔は間違いなくタクマくんだ。6年たってもあまり変わっていない。


「ずっと、計画を練ってたんだ。詩乃さんを計画。

いろんな本を読んだり、ネットも駆使した。詩乃さんならこの図書館に帰ってくる

って確信があったから、罠を張った。

今、詩乃さんはその人形に封印されてる。出られないように強固に。

───1つ目の策がうまくいってよかったよ。俺自身に取り付かせるのはちょっと

危険だったから。」


にこりと微笑むタクマくん。


彼はずいぶんと成長したらしい・・・思わぬ方向に。まだ理解が追いつかないが、

それだけは確かだ。


「惚れさせるだけ惚れさせて逃げるなんて、ずるいと思わない?」


事実だ。私は未練を晴らすために、この子が私に恋愛感情を抱けばいいとすら考えていた。罪悪感はあったが・・・


「これからはずっと一緒だよ!詩乃さん!」


「・・・頼む相手、間違えたかなぁ?」


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