第3話 名前

「詩・・・えーっと、自然や人事などから受ける感動を、リズムをもつ言語形式で

表現したもの・・・? どういうこと?」


「うーん・・・説明が難しいけど、歌の歌詞みたいなものかな。」


勉強の約束をしてから10日。午後に図書館に集まり、奥の机でドリルを使って

文字を学ぶのが日課になっていた。



「タクマくんは11歳だったよね?」


「うん、そうだよ」


「となると、小学5年生・・・もう3年生の漢字が終わりそうだから、

すぐに追いつきそうだね。すごいよ、タクマくん!」


「そ、そうかな? へへ・・・」


初めこそ見慣れない文字に苦戦していたタクマだったが、要領をつかんでからは

驚くべき速さで知識を吸収していき、わずか5日でひらがな、カタカナをマスター

した。


漢字の学習では文字の読み、書きに加えて字の持つ意味まで進んで勉強している。


「ねえねえ、この字って詩乃さんの名前の漢字?」


「そうだよ。詩乃の”し”だね。」


すると、タクマは顔をほころばせる。


「───やっぱり、勉強って楽しいな。人の名前ひとつひとつにも、こうやって

意味があるなんて知らなかった。」


「・・・・・・」


「詩乃さん? どうしたの?」


「ううん、なんでも。続きをしよっか。」




詩乃がタクマを見る目が、少しの間だけ愛おしそうなものになったことには

タクマも、詩乃自身ですらも気づかなかった。


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