落ちたわけ

 風紀委員としての仕事が板についてきたのだろうか。


「ハルくん。委員の仕事がんばって」

「うん。ありがと」


 最近は、声を掛けてくれる人が増えた。

 リクくんは相変わらず、ロクでもないけど。

 他の女子は、声を掛けてくれたり、分からない事があると教えてくれたりする。


「……最近、学校楽しいかも」


 肩に力が入り過ぎていたのか。

 自分では分からなかった。

 何か変わったことがあったか、と言われたら、ことか。


 廊下を歩いて、教室をチェック。

 ゲームの持ち運びなどは、声だけ掛けて見逃す。

 でも、女の子同士で怪しいことをしている場合は、注意。


 そんな調子で、7月に入った。


「うん。ここは、OKっと」


 教室を一通り見て回り、ボードのクリップに挟んだ紙に、〇を付ける。


「次は二階ね」


 二年生の教室に行くため、ボクは階段を下りた。

 段差の一段目に足を伸ばし、「帰ったら宿題かな」と考えた。


 頭の中は宿題と、毎晩訪れる長門さんのことでいっぱい。

 というか、追い払う口実を考えていた。


 一段目、二段目、と階段を下り、三段目に足を伸ばした時、背中に衝撃を感じた。


「あれ?」


 ボクの足先は何もないところを踏む。

 足がガクンと落ちて、段差を踏み外したボクは、そのまま膝から崩れ、雪崩のように踊り場へ滑落していった。


「い、っでぇ!」


 悲鳴を上げずにはいられなかった。

 膝を思いっきりぶつけてしまい、力を入れるとビキビキ痛む。


「な、んだ?」


 階段の上を見る。


 ――空き教室にいるはずのヒナ姉ちゃんが、そこに立っていた。 

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