枕元に立つキミ

 日を追うごとに、どんどん暑くなる夜。

 窓は網戸をして、少しだけ開ける。


 外からは虫の声が聞こえ、そよ風を浴びながら寝ていた。


 だけど、気配を感じたのだ。

 目を開けて、何やら息遣いの聞こえる枕元に視線を送る。


「…………」


 ヒナ姉ちゃんが正座をしていた。


「おわあああっ!」


 びっくりして飛び起きると、隅っこに避難する。

 窓から差し込んだ外灯の明かりが、ヒナ姉ちゃんを照らしていた。

 手には包丁を持ち、何も言わずにボクを見つめている。


「ひ、ヒナ姉? 何してんの?」

「……何も」

「やめてよ。心臓に悪いじゃんか」

「……今日、誰も来てないんだね」


 声が細く、聞き取り辛い。


「いつだって、ボク一人だよ」

「嘘だよ」

「や、男子寮に、女子入っちゃいけないから」


 その決まりをガンガン無視するのが、約二名いるが、毎日来るわけじゃない。


「エマ先生と、長門さんがきてるじゃない」


 どうして、その事をヒナ姉ちゃんが知っているんだろう。


「長門さんと、付き合うんでしょう」

「……何で、知ってるの?」


 あれは事故みたいなものだけど。


「お姉ちゃん、許さないよ」


 少しだけ、近づいてくる。


「ハルくんは、ワタシの物だから」

「ひ、ヒナ姉?」


 髪を下ろしたヒナ姉ちゃんは、幽霊のようだった。

 白いパジャマを着ているから、なおさら、それにしか見えない。


「きて」

「……怖いよ。ヒナ姉ちゃん」

「きてってば」


 怒られて、素直に言う事を聞く。


「膝枕、してあげる」

「でも……」

「早く、頭置いてよ」


 ヒナ姉ちゃんには逆らえなかった。

 肉付きの良い太ももに頭置くと、まるで自分の首をまな板に置いたように錯覚してしまう。


 ヒナ姉ちゃんは、目を見開いたまま、ジッとして動かなかった。


「ハルくんは、お姉ちゃんの言うこと、聞けるよね」

「……う、うん」


 目を見開いたままの顔が、近づいてくる。

 興奮しているのだろう。

 鼻息が荒かった。


「あの子と、別れて」


 黙っていると、首に冷たい感触があった。


「別れて」

「ひ、な姉」

「何で言うこと聞いてくれないの。いつだって、お姉ちゃんがお世話してきてあげたんだよ」

「そう、じゃなくて、これ」

「ハルくんは、ワタシのものでしょ!」


 ぐっ、と冷たいものが、首に押し当てられる。


「はい」

「分かればいいの。ねえ。長門さんと告解部屋で、何してたの?」

「え?」

「……な~んか、ピチャピチャ落としてたよね。ジュルジュルって」


 ボクは目を瞑った。

 あの告解部屋では、申し訳ないけど、二人の飢えた乙女により、貪られていた。


 腰が砕けるまで、ずっとだ。

 二人ともタガが外れたように、遠慮がなかった。


 文字通り、爆発していた。


「いやらしいこと、してたの?」

「そんな、ことは」

「ハルくんは風紀委員じゃない。だったら、えっちなことはダメだよ」

「う、ん」

「汚くて、気持ち悪いことは、しちゃダメなんだよ」

「はい」


 間近から降り注ぐ圧に耐えて、ボクはジッとしていた。

 唾を飲めば、首が切れそうで怖かった。


「……でも、そうだよね。男の子だもんね」


 首から包丁が離れた隙に、ボクは生唾を呑む。


「前に、教えてあげるって言ったでしょ」


 上着のボタンを外し、ヒナ姉ちゃんが脱ぎ始めた。

 なのに、いやらしさより、恐怖を感じてしまうのは、きっとヒナ姉ちゃんの雰囲気がいつもと違い、別人に感じるからだろう。


「これが、女の子の胸だよ」


 露わになった、白い乳房。

 大きくて、重みがある白いお肉は、ボクの額にずっしりと乗っかった。


「……お、姉ちゃ……はぁ、……ちょ、っと」


 乳首や乳輪は大きめで、薄暗いから色までは正確に見えないけど。

 確かに、目の前にあった。


「ハルくんが良い子にしていたら。もっと見せてあげる。ううん。触ってもいいよ。――でも」


 柔らかい膨らみに顔を押しつぶされると同時に、首筋には再び冷たい感触が当たった。


「……言うこと聞かないと、許さないから」

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