友人との決別

 ホームルームが始まる前、案の定リクくんが絡んできた。


「よぉ。陰キャ」

「陰キャ?」

「むふぅ、お前さ。最近、調子に乗ってね?」


 それ、友達に言うセリフじゃないだろう。

 いや、彼の中ではボクはすでに友達ではないのか。


 自覚すると悲しいものがあるけど、ボクだって引くに引けない。


「風紀委員として当然のことをしただけだよ」

「むふぅ! むふぅ! ムカちゅく!」

「ね、ねえ、リクくん、本当に醜くなってきてるから、やめた方がいいって。元の――……あれ?」


 ――記憶を辿ると、そこにはがいた。


 授業中、先生の目を盗んで、反対側の席に座る女子の股座に手を突っ込み、鼻息荒くして何かしていた。


 嘘のようで、本当の話。


 いつも、ニチャニチャ笑って、ボクは見ないふりをしていたんだ。


「いつも、こうだったかぁ」

「何勝手に納得してんだよ」


 今のボクは、以前と違って、何か吹っ切れていた。

 自分でも分からないけど、気持ちが軽くて、以前では「ダメだ」と頑なに拒んでいた行動に出てしまう。


「…………じ~~~っ」


 視線を感じて、横を向く。


 ――長門さんが、真顔で見ていた。


「リクくん。落ち着いてよ。どうしたの?」

「こいつぅ、昨日さぁ。長門に嫌がらせしてたんだぜぇ」

「え……、最低……」


 ボクは即行、手を振った。


「いや、そんな事実ないので。ボク、風紀委員なので、その活動が嫌がらせかと言われたら、違いますよね。そういうことです」

「おンま、ぇぇえええっ!」


 カキンっ!


 教室中に、金属音が響いた。

 ホームランを打ったのか、と錯覚するほど、綺麗な甲高い音だった。


「んいいいいいっ!」


 突然、白目を剥いたリクくんが倒れてくる。

 咄嗟に横へどくと、机を巻き込んでうつ伏せになった。


「きゃああああ!」


 女子達が悲鳴を上げる。

 そして、床に転がる野球ボール。


 ボクは長門さんを見た。


「えへっ☆」


 あ、あいつ、やりやがった。

 教室で、本当にホームラン打ちよった。


「リクくん! 大丈夫!?」

「先生呼んできて!」


 こっそりとフェードアウトし、長門さんの方に近寄っていく。

 どこから持ってきたのか、バットをゴリゴリと床に擦り付け、「どうだった?」と聞いてくる。


「な、何してんの?」

「んー、彼氏助けたみたいな?」


 以前よりは、甘い雰囲気が漂っている。

 しかし、サイコである。


 前よりもある意味酷くなっていて、ボクは戦慄してしまった。

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