駄々っ子生物

 夜。

 長門さんの様子がおかしかった。


「帰りなよ」

「や~だ~っ!」


 腕にしがみ付いて、離れない長門さん。

 ボクは今日こそ誰にも邪魔をされずに、お風呂へ行きたかった。


「あの、暑いんだって」

「や~~~~~だ~~~~~~~ッッ!」


 駄々っ子になっていた。

 いやらしい事をするわけでもなく、ひたすら腕にしがみ付いて、スマホでスプラッター映画を観ているのだ。


 悲鳴がこっちにまで聞こえてくるし、ボクはグロいのが苦手なので、勘弁してほしかった。


「ハルくんも観ようよ」

「ちょ、見せてこないで!」


 ゾンビ映画だった。

 不気味なうめき声を上げ、人を食べるモンスター。


「どうしたの? 今日、変だよ?」

「んー、……うん」

「なに?」

「今日のハルくんは、ちとカッコよかった、です」


 子供みたいな口調で、途切れ途切れに言ってくる。

 だいたい、ボクの場合、明日が心配だ。


 友人を叩いてしまった以上、もう嫌われただろう。


「ハァ」

「彼女といるのに、ため息よくない」


 付き合ってない。

 断じて、付き合ってなどいない。


「明日から、リクくんとどう顔を合わせていいか分からないんだよ」

「あー、あいつね」


 急に声のトーンが変わる。


「それなら、アタシに任せてよ」

「へ?」


 にっと笑った表情を見て、嫌な予感がした。

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