夜の道

 街に行く、とは言ったけど。

 実際のところ、街になんかいけない。


「えぇ、と。銭湯、この先にあるっぽいよ」

「ねえ! どうしてくれんの!?」


 さっき、聞いたところによると、ボイラーを壊す真似はしなかったようだ。――が、鍵を壊すために、仕方なくバットを使ったとのこと。


 電源を落として、バルブを適当に回し、「先生、お風呂の調子おかしい」と報告してきただけだという。


 このままだと、ボクはお風呂なしで過ごすハメになる。


「あっちぃ。もうやだぁ。歩きたくないぃ」

「うっさいなぁ」


 ボクらは、外灯が一本立っているか、いないかの田んぼに囲まれた道を歩く。


 この田んぼに囲まれた道を抜けた先に、ボロっちい銭湯があるらしく、急がないと閉まるとの事なので、急いで向かっている最中だ。


「だいたい、この時間にバスとか電車とか、走ってないの分かるでしょ」

「田舎過ぎんだよぉ。くそぉ」


 電車は一時間に一本だけど、バスは走ってるだろうと舐めていたみたいだ。


「あっつぅ。もう、夏だよ。これ」

「……うぅ。やべ。汗がぁ」


 タンクトップの裾を引っ張り、額を拭く。

 その拍子に、胸の下半分が見えた。


「……こんな、はずじゃなかったのにぃ」


 薄暗い中で、小さな突起物が見え隠れして、ボクは堪らない気持ちになる。


「ん。どうしたの?」

「いや、何でも……」


 首を傾げた長門さんが、「起ってんの?」と、普通に股間を握ってきた。


「うあっ!」


 我慢に我慢を重ね、いきなりの刺激は非常に効いた。


「……ぷふふっ。こんな状況で起っちゃうんだ」

「これは、その」

「んー、誰もいないしなぁ」


 周りは虫の声しか聞こえず、無人。

 長門さんはタンクトップを捲り上げると、ボクの頭を入れた。


「うぷっ」


 蒸れた長門さんのにおい。

 きめ細かい肌は汗で濡れていて、脇や胸からは、もわっと蒸れたボディソープの匂いが漂ってくる。

 洗剤の匂いに体臭が混じっていて、ボクは前かがみになった。


「二人きり」

「だ、ダメだって。こんなこと……」

「チンコ起ってんじゃん」

「オブラートに包んでよ」


 ズボン越しに強く握り、上下に揺すってくる。


「……ぅあ……」


 頭上からは、長門さんの声が聞こえた。

 いつもより、艶があって、弱弱しい声だった。


 唇には、硬い突起物が当たり、左右に揺れる。


「……ちと、気持ちいいかも」

「う、うぅ」

「こっち、触ってみ」


 手を誘導され、スカートの中に手が入る。

 ぐっちょりと、パンツが濡れていた。


 汗なのか。別の何かなのか。


 スカートが上がった拍子に、女の子の匂いが上がってきて、頭がおかしくなりそうだった。


「お、……あれれ?」


 度重なる刺激に、腰が震える。

 一瞬強張った腰から力が抜け、ボクは崩れ落ちた。


「はぁ、はぁ、……っ、今日は、もう、帰ろ」


 パンツが濡れて、気持ち悪かった。

 長門さんは、ボクをじっと見下ろしていた。


「今、何か出た」

「うっ」

「えぇー、なに、今の」


 興味津々という感じで、しゃがみ込んだ長門さんが、ズボンの中に手を入れてくる。


「ま、待った。それ以上は……」

「ぬるぬるしてる。え、なにこれ?」


 ズボンから取り出した自分の手を見つめる。


「おー、……これが。へえ」


 鼻を近づけ、「スン、スン」と嗅ぐ。


「んぇぇ、くっさ」

「勘弁してよ」


 嫌そうに顔を歪めているくせに、もう一度「スンスン」と、手の平を嗅ぐ。


「あははは。くっさ~い。スン。やばぁ。くっさ。スン」

「ちょ、もう、いいから! 早く行こうよ」

「スン……。んー、スン、スン。くっせぇ。スン」


 やたらと嗅ぎまくっているのだ。


「あ、拭くもの持ってないし、んー」


 そして、長門さんは自分のパンツに手の平を拭った。

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