音楽の授業

 ボクの隣では、音域を無視してリクくんが大声を張り上げる。


「ハッ、レルヤ! ハッ、レルヤ! レルヤ! レルヤ! ハァンれる~~~~や~~~~~ッッッ!」


 おかげで、ボクの声はかき消されていた。


「ストップ! 誰!? 今、フレーズ歌ったの! どうして揃えてくれないの!」


 リクくんがにんまりと笑って、後ろ手を組む。

 決して、自分とは言わないし、何なら人のせいにするあたり、したたかだなぁ、と思う瞬間がある。


 立ち回りが上手いというか。

 それで他の子達と一緒にバカにしたりするので、そういうところは素直に苦手だ。


「長門さん。さっきのフレーズ、もう一度歌ってみなさい」

「……やです」


 長門さんは、あからさまに引き攣っていた。

 それを見ていたリクくんが、そっと耳打ちしてくる。


「たぶん、音痴だぜ」

「え、そうなの?」

「バッカ。お前、音痴の奴は口パクするんだよ」


 だったら、音程が揃う以前の問題な気がする。

 たぶんだけど、長門さんは普段の奇行から、一部の先生に目を付けられているんじゃないかな。


 今の音程がズレたのは、ボクの隣にいるリクくんが原因だと思うし。


「やりなさい!」


 先生の怒号が飛び、長門さんは苦虫を噛み潰す顔で、口を開く。


「ハーレールヤー。ハーレレルヤー」

「声が小さい!」

「ハレールカナ―。ハーレールノカナー」


 長門さんの歌声を聞いたみんなは笑っていた。

 ただ、ボクは妙に引っかかっていた。


 本当に、この人下手なのか?


 わざと音程を外している気がするのだ。


「もういいわ。あなたは、声のボリュームを落として、周りに合わせなさい。はい。次は、全員で!」


 讃美歌さんびかをうたっている間、喉に小骨が刺さったような気持ちになり、ボクは音程を外してしまっていた。

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