臭いは麻薬と同じ

 困ったことになった。


「せ、先生……、もう、やめ……」


 着替えている途中のボクは、壁を背にして寄りかかっていた。

 エマ先生は、着替えている途中なのに、股間に顔を埋めて幸せそうな顔をしていた。


「スン……ハァァ……っ。ハルくぅん❤」


 甘く、蕩け切った様子のエマ先生。

 鼻先をグリグリと膨らみに押し付けて、肺いっぱいに臭いを取り込んでいた。


「スン、スン。ハァ~~~~~っ❤ 幸せです❤」

「ち、遅刻しちゃいますよ」

「ん、でも、……もうちょっとだけ。えへへ」


 ズボンを半分だけずり下ろし、臭いを嗅ぐのに夢中になっているのだ。


 ほんのりと赤らんだ顔は、ポーっとしていて、まるで恋する乙女のような愛らしさがあった。


「男の子って、スン、ここ硬くなるんですね、スン、スン」

「う、鼻が、グリグリやめて……」

「ぇ? こうですか?」


 ぐり、ぐりっ。

 今度は強めに擦り付けてくるエマ先生。

 鼻から漏れる吐息は熱くて、パンツ越しに感触と共に感じてしまい、膝が震えた。


 言葉にはできないけど、変な気持ち良さがあって、座ってしまいそうになる。でも、エマ先生は腰に腕を回し、自分の口元でボクの体重を軽く支えていた。


「熱くて、臭くて、……ふふっ。ハルくん。気持ち良さそうですね」

「ぼ、ボク、もう、行かないと」

「あれ? 先っぽ、濡れてませんか?」


 ああ、ダメだ。

 エマ先生は天使なのに。

 天使が汚らわしいボクの陰部で、無邪気に遊んでいる。


 エマ先生の指先が、パンツの染みに触れようとする。


 コンコン。


 その時、ノックの音が聞こえ、エマ先生は叱られた猫のように跳びはねた。


「ハルくん? 起きてる?」


 ヒナ姉ちゃんだ。

 一方で、エマ先生は「あわ、わ、え、どう、どうしよう」と、オロオロしていた。


 目についたのは、布団。


「ぼ、ボクが出ますから。後で、出てください」

「分かりました。あ、ハルくん」

「はい?」


 もう一度、陰部に顔を押し付けてきた。


「ス―――――――ゥゥゥ……っっ❤」


 麻薬を吸ったかのように、一気に蕩けるエマ先生。


「っはぁ、か、隠れましゅ」

「は、はい」


 ゴソゴソと布団に潜りこみ、エマ先生は丸くなる。

 でも、それじゃ、絶対にバレるので、ボクは急いで玄関に向かった。


 扉を開けると、キョトンとした顔のヒナ姉ちゃん。

 なぜか、ボクの部屋の方を見つめた後、ボクにもう一度視線を戻す。


「遅かったね」

「う、うん。着替えに手間取って」

「ふ~ん。あ、寝ぐせ」


 そう言うと、ヒナ姉ちゃんは手ぐしで、髪を直してくれる。

 薄く笑って、前髪を分けてくれると、こんな事を言った。


「……誰かいた?」

「へ?」


 あくまで、笑顔だ。

 けれど、疑惑の色が浮かんだ眼差しが、部屋の方に注がれる。


「誰も、いないよ」


 笑顔が引き攣ってないか、心配だった。


「ふ~ん。ま、いいけど」


 手を引かれ、前に倒れ込む。

 ふっくらとした胸に飛び込むと、ヒナ姉ちゃんはきつく抱きしめてきた。


「……スン……」

「ヒナ姉ちゃん?」

「ん~、んー、……まあ、いいけどさ」


 なんだろう。

 何か、機嫌悪い。


 抱き締めてくる腕には力が込められ、後頭部が押さえられた。


「ハルくんは、ワタシの物なんだけどなぁ」

「ヒナ、姉……」


 頭に頬ずりをされ、耳を指でくすぐられる。


「ハルくん。女の子に、興味あるの?」

「なん、で?」

「別に。もし、興味あるなら、さ」


 ヒナ姉ちゃんが妖しく囁く。


「ワタシ、……教えたげる」


 頬をぷにぷにと押され、ボクは何の事を言ってるのか分からず、首を傾げる。


「ヒナ姉?」


 いつもより、雰囲気がおかしかった。

 ボクを見る目が、いやらしいというか。

 そのいやらしさの奥に、メラメラと燃える何かが見えた気がした。

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