生徒会室はあるけれど、風紀委員のための部屋はない。

 一応、風紀委員長は、生徒会の出入りができるし、生徒会室で雑務をこなすことができる。


 ヒナ姉ちゃんは、もっぱら誰も使っていない空き教室を好んだ。


「えー、と。ここ、何だっけ。忘れたなぁ」


 ヒナ姉ちゃんと一緒に勉強をしているボクは、椅子を並べてノートを覗き込んでいた。


「なんだっけなぁ」


 首を傾げる度に、フルーツの香りが漂ってくる。

 口を尖らせて、ボクよりも一年の授業にしかめっ面をしている。


「ヒナ姉ちゃんって、勉強できないんだっけ?」

「……う」


 それでも、勉強を見ようとしてくれている。


「できるもん」


 現在は、数学の問題を解こうとしている。

 二次関数の問題だけど、ボクはさっぱりだ。


 ヒナ姉ちゃんがペンを咥え、口を尖らせる。


「……何でこんな問題習うんだろ」


 分からないあまり、問題が出題されている事に対して、疑問を持ち始めた。


『生徒の呼び出しをします。風紀委員、常見ヒナさん。常見ヒナさん。至急、職員室までお願いします』


 校内放送が鳴り、「え、ワタシ?」とヒナ姉ちゃんが眉をひそめる。

 どうやら、呼ばれた心当たりはないようで、首を傾げていた。


「ごめん。じゃ、行くね」

「うん」

「ちゃんと勉強するんだよ」


 何度もこっちを振り返って、パタパタと足音が遠ざかっていく。


「でも、さっきの声。……どこかで聞いたことがあるような」


 先生にしては、ちょっと幼い気がした。

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