きっかけとなる

「それ、本当なの? だとしたら、一大事よ?」


 ボクを甘く見てもらっては困る。

 逃げ帰ったあと、ボクはヒナ姉ちゃんに長門さんの悪行をチクってやった。


「学校にあんな輩がいるなんて、信じられないよ。やっぱり、厳粛に取り締まるべきだね」


 ヒナ姉ちゃんは、「あの子かぁ」と、顔を浮かべているようだ。


「停学になるくらいで済むでしょ?」

「うーん。ウチの学校は、他と違うからさ」

「どういうこと?」

「身体検査したでしょ?」


 ボクは首を傾げた。

 身体検査がどうかしたのだろうか。


「この学校って、宗教上の理由でね。女の子だけ、定期的に身体検査があるの。と言っても、体力測定とか、そういうのとは違うわ」


 手でメガホンを作り、ひそひそと話す。


「処女であるか、どうか。それをチェックするために、膜を見るのよ」

「……え? なにそれ?」


 話が見えず、声を上げた。


「つまりね。ワタシ達にとって、一番大事なのはであるか、どうかってこと」


 ヒナ姉ちゃんは、ペンを置いて、テーブルに肘を突く。

 複雑そうな顔をして、話を続けた。


「もちろん、殺人とか、そういった犯罪行為をすればアウト。でも、処女であれば、身が清らかで、教えを守っていることになる。だから、停学や退学の処分は、身が清らかであることが深く関わるのよ」


 男のボクには、何とも反応しづらい。


「だから、過去に何の部活をやっていたか、なんてことも調べられるの。激しいスポーツをしていると、膜って破れちゃうことがあるんだ。昔は、そのあたり融通が利かなかったようだけど、今は時代が変わったらしくてね。過去のスポーツ次第では、処女性は疑われないことになっているの」


 つまり、この学校の人達は全員が処女である、ということだろう。

 それは宗教上とっても大事で、厳しくされているみたいだ。


「窓ガラスを割ったくらいでは、尻を叩かれて終わりじゃないかしら」

「へえ。じゃあ、無駄足だったかな」


 ヒナ姉ちゃんは首を横に振る。


「先生に、きっちりと報告しておきます」


 机から立ち上がり、扉から出ようとしたヒナ姉ちゃん。


「あら?」


 何かに気づいたようで、扉の窓から奥を覗いていた。


「どうしたの?」

「ううん。誰かいたような気がしたけど。気のせいだね」


 そう言って、ヒナ姉ちゃんは空き教室を出て行く。


「処女、か」


 ボクには、ちっとも分からない。

 だって、処女であるか、どうかって、そんなに重要なんだろうか。

 シンプルに考えると、釈然としない気持ちがあった。


 とはいえ、学校の決まりだから、この辺は伝統みたいなものなんだろう。


「ふふん。でも、これで、あの人も大人しくなるね」


 もしかしたら、退学になっちゃうのかな、と自分で言っておきながらハラハラしたが、そんな事はなくてよかった。

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