奇行

 風紀委員としての巡回で、ボクは校内を回っていた。

 この巡回の意味は、生徒が校内で非行をしていないかの確認だ。


 隠れて、イチャイチャしていようものなら、即刻先生にチクって、怒ってもらうのだ。


 ヒナ姉ちゃんは、口が上手いから言い聞かせられるけど、ボクは自信がないので先生を頼る。


 学校名にとついている通り、宗教色が強い。

 なので、姦淫かんいんはご法度はっとである。


 男女の不純異性交遊はもちろん。

 女の子同士の関係は、不潔極まりないという名目で、厳正に処罰される。


 処罰の内容は、シスターからの愛のムチ。

 ビンタである。


 昔は、もっとすごかったらしいが、時代が時代なので、ビンタに落ち着いたとのこと。


 まあ、それ以上の事をしてしまえば、停学になったり、その辺は普通の学校と変わらない。


 腕章を付けて、一階の職員室前まできた。


「何度言ったら分かるの!?」


 すると、先生の怒鳴り声が聞こえてくる。

 ボクは慌てて隠れて、廊下の角から声のした方を見た。


 職員室前では、長門さんが先生に怒られていた。


「職員室に蛙を持ち込まないで、ってあれほど注意したでしょう!」

「……命あるものに、敬意を表しただけです」


 ブスっとふくれっ面で、長門さんが弁明する。


「まあっ! 口答えする気?」

「だって、先生が殺してはいけませんよ、って言うから。じゃあ、どうすればいいのかな、ってカゴに入れて持ってきたんじゃないですか」


 な、なに、やってんの?


「せめて、カゴの中に入れたままにしなさい。どうして、放したの!?」

「外に出たそうにしていたのでぇ。まあ、いっかなぁ、って」


 ベチィンっ。


 廊下中にビンタの音が響く。

 長門さんは相変わらずふくれっ面で、先生を睨みつけていた。


「狂ってるの!?」


 生徒に向けて放つ言葉ではない。が、気持ちは聞いてるだけで、とても共感できる。


 先生の怒鳴り声に駆けつけた他の職員が、室内から出てきて、「落ち着いてください」と宥める。


 それでも、怒っていた先生の溜飲りゅういんは下がらず、「ふん。もう二度とやらないでちょうだい」と、怒ったまま職員室に戻っていった。


 他の先生からは、優しく注意されて、「気にしないでね」と声を掛けられる。

 そして、一人廊下に残された長門さんは、息を吸い込み、天井を見上げた。


「……くっそぉ。カップに入れたかったのに」


 狂ってるよ。

 何言ってんだよ。

 まさか、本当は蛙をカップに入れようとしたのか。


 腕を組んで、何か考え込む。

 見ていると、何やら閃いたようで、すぐに廊下を去っていった。


「何か、嫌な予感がする」


 ボクは後を追いかけた。

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