スズナとの出会い

 そもそも、長門さんとの出会いは、こんなにギスギスしたものではなかった。


「あれぇ? 体育館どこぉ?」


 校門を潜ると、学校のシンボルと十字架の銅像があり、その手前に校内地図がある。


 ボクは何度も地図を確認し、オリエンテーションが行われている体育館を目指していた。


 入学初日から、遅刻。

 シャレにならなかった。


 学生寮には、前日から泊っていいと許可を貰ったが、よく眠れず。

 そのせいで、寝過ごしてしまったのも、原因の一つ。


「うぉい」

「はい?」


 声がして、振り返る。


 桜が舞い散る通りの真ん中で、一人の女子が立っていた。

 ――を持って。


「何してんの?」


 いや、あなたが何やってたの?

 ボクは出かかった言葉を呑み込んだ。


「迷って、しまって。体育館に行きたいんですけどぉ。どこか分かりませんか?」

「ここ、小学校じゃないよ」

「……高校生なんですけど」


 その時の長門さんは、目を丸くして驚いていた。


「ウッソ! マジ!?」


 色々な角度から見られて、居心地が悪かった。


「へえ。そっか。もしかして、オリエンテーション?」

「はい。そうです」

「んじゃ、アタシと同じじゃん」

「え? そうなんですか?」

「いや~、場所分からなくてさぁ。窓壊したら、誰か来るかな、って思って」


 そう。彼女は、生粋のサイコパスだった。

 サイコな一面は、ふとした瞬間に現れる。


 でも、この時はそう思わなくて、手を握られてドキドキしたのを覚えている。


「行こ」

「場所分からないんじゃ……」

「だーかーら。窓。割ろ?」

「嫌ですよ!」


 手を振り払い、本気で怯えた。

 甘酸っぱいドキドキが、恐怖のドキドキに変わってしまった。


「えー、遅刻するよ?」

「うぅ。どうしよう。……どうしよう」


 バットの先で、地面をグリグリして、長門さんは「あ」と声を上げた。


「面倒くさいけど、玄関の所に、事務室あったじゃん。職員に聞く?」


 どうして、それを面倒臭がるんだろう。


「ゴー、ゴー!」

「ちょ、ちょっと!」


 手を引かれて、ボクは長門さんの後について行った。

 ひんやりとした手の平が、ボクの体温で温かくなるのを感じながら、二人で「迷子になりました」と事務員の人に助けを求めた。


 これが、ボクらの出会いである。

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