第6話 下着審査に向けて

 なんでウェルティ帝国の姫である私が人前で下着姿にならないといけないのだろう。人前で肌を晒すことなんてありえないと思うのだが、私の想いとは裏腹にコトハをはじめとしてあの場にいた女性も全員乗り気であったのが少し気になっていた。

「あの、ユイさんに質問があるんですけど」

「何ですか。カトリーナの質問にだったら誠心誠意心を込めて答えますよ」

「ちょっと気になったんですけど、アイドルコンテストの審査項目に下着審査を入れたのって、ユイさんの趣味ですよね?」

「はい、そうですよ。私が純粋にアイドルを目指している女の子たちの下着姿を見たいって思っただけです。本来であれば水着審査で良いと思うのですが、この世界では残念なことにまだビキニが発明されていないんですよね。全身を覆ってしまう水着だと肌の露出も少なくていまいち楽しめそうにないんです。そこで、水着審査の代わりに下着審査を取り入れることにしたんです」

「いやいや、そんな風にどや顔で言われても困るんですけど。そもそも、人前で肌を晒す必要なんてないと思うんですけど。何より、肌を晒すのに抵抗があるんだけどな。なんで他の人達は抵抗ないんだろう?」

「それは私がこの世界の倫理観とやらを少し変更したからですね。私が元居た世界でも下着をチラ見セする見せブラとか見せパンって文化があったんですけど、それをさらに発展させた形で広めることが出来ればいいなって思ってるんですよ。ただ、残念なことに私の力ではまだソレを世界中に波及させることは出来ないようで、今回みたいなコンテストやショーといった形でなら羞恥心を取っ払うことに成功はしたんですよ」

「ユイさんの趣味でこの世界の価値観を壊すような事はやめていただけるとありがたいんですが」

「その点ならご安心を、時代に合わせて価値観は変化するのですが、その変化を少しだけ早く大きなモノに変えただけですから」

 私が思っていた以上にユイさんの存在はこの世界に多大な影響を与えているのだが、本人がそれを自覚して行っているというのが良い事なのか悪い事なのか判断出来ないのだ。倫理観をめちゃめちゃにすること自体は良くないとは思うのだが、ユイさんの言う通りで価値観というものは時代の流れによって変化するものなのだろう。私のおばあさまが若いころだと女性は日中にしか外へ出ることが許されなかったそうなのだが、今では時間に関係なく外へ出ることが許されている。今よりも街中に犯罪者が多く跋扈していたという背景もあるのだろうが、ちょっと前までは男性のみが社会を動かしていたことに由来する事だったのかもしれない。


 だからと言って、私が人前で下着姿にならないといけないという事は話が別なのだ。そもそも、ウェルティ帝国の姫である私が他国の小さな村で行われる小さなコンテストで肌を晒すなんてありえないだろう。もしかしたら、この小さな出来事が隣の国との確執となり、大きな戦争へと発展してしまう恐れすらあるのではないだろうか。

「戦争になんてならないから大丈夫ですよ。それに、カトリーナだけじゃなくあちらの国にいるお姫様もアイドルコンテストに参加してくれることになりましたよ。だから、カトリーナはそんな些細な事を気にしなくても大丈夫ですからね」

「ねえ、私の考えを読むのやめてって言ってるでしょ。あの国って色欲大魔王の影響でエルエル教の支配力が低下しているとはいえまだまだエルエル教を信仰している人は多いはずよ。宗教国家エルエルのお姫様と言えば聖女や女神と例えられているマリン姫ですけど、素顔は見せたことも無いはずなのに、小さな村の小さなアイドルコンテストに参加するなんてありえないです。そのアイドルコンテストには下着審査もあるって事だし、国民に対して素顔も晒していないようなマリン姫が人前に出て下着姿をさらすなんてありえないでしょ」

「カトリーナ。そういう説明は別にしなくてもいいんですよ。私は全部知ってますから。それに、色欲大魔王の軍勢を始末してきた報告をしてきた時にマリン姫から直接アイドルコンテストに参加するという約束も取り付けてますから。マリン姫は常日頃から国民に対して歌を歌って勇気付けているのですからアイドルコンテストに参加する事に対して何の不思議もないのですよ」

「ちょっと待って、色々とおかしいことがあるんだけど、ちょっとだけ整理させてもらっても良いかな?」

「はい、カトリーナの気が済むまで整理してくれていいですよ。その間に私はカトリーナに似合いそうな下着のデザインを考えておきますからね」


 エルエル教はこの世界で一番古い宗教と言っても過言ではない。ウェルティ帝国では女性が仕事をする事も政治活動に参加することも公的に認められているのだが、エルエル教では一切認められていない。なぜなら、エルエル教に置いて女性とは神に近しい存在として働くことも政治に関与することも認められていないのだ。

 ただ、今の時代においてはそんな事を言っていては他の国との競争に負けてしまうだけだという事も理解しているようで、中心都市部以外ではそう言った扱いはほぼ形骸化している。あの小さな村では老若男女問わず仕事をしていたのもそう言った事が関係しているのであろう。

 今現在宗教国家エルエルには指導者としてマリン姫が君臨しているのだが、その歌声を聞いただけで滋養強壮疲労回復勢力増強と言った効果があるとも言われているのだ。その歌声を披露する場としてアイドルコンテストは相応しいのかもしれないのだが、人前に姿を見せることのないマリン姫が小さな村のアイドルコンテストに参加すること自体あり得ない事だろう。

「別にありえない事じゃないと思いますよ。だって、マリン姫が人前に姿をさらしていないって思ってるのはエルエル教を知らない人達だけですから」

「え、どういう事?」

「ですから、カトリーナたちが知らないだけで、あの国ではマリン姫の姿を見た事ない人の方が少ないんですよ。だって、マリン姫って承認欲求の塊で人に見られたいって思うような人ですから」

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