第5話 カトリーナ(未経験)とコトハ(経験少ない)の対決
「そう言うわけで、会場づくりの手伝いをお願いしますね」
用意されている丸太の原木を木材に加工するようなのだが、開場の設計図は大まかなものしか用意されていないのでさすがのユイさんも困っているようだった。
「あの、詳細な設計図とかないですか?」
「すいません。いつも行き当たりばったりな感じでやってるのでそういうのは無いんですよね。去年のステージも最終的には土で作った山を丸太で囲んだだけでした。ただ、今年は丸太を加工してもらえるみたいなんで去年よりは見栄えも良くなると思いますよ」
「うーん、そういうのは困りますね。それでは、私がちょっと設計図も作ってみますから時間を頂きますね。紙とペンってありますか?」
私が考えている何倍もユイさんはこのイベントを楽しみにしていたんだろうな。私もまだ見たことが無いのでわからないが、こんなにユイさんが力を入れるほどのモノであれば国に帰った時に同じような大会を開いてみてもいいのではないかと思う。可愛い女の子が自信をつけることにもなるだろうし、私も可愛い女の子たちを見ることが出来て嬉しい。
「ユイお姉さまって何でも出来るのに何であなたのメイドなんてやってるんですか?」
「なんでって言われても、私もその理由は知らないんだよ。ただ、私も私のお父様も私の国もユイさんには助けられてるってのはあるんだよね」
「よくわからないですけど、私とあなたで勝負してどっちがユイお姉さまに相応しいか白黒つけましょう。ユイお姉さまが作ってくれたステージで、どちらが上か決めましょう」
「いや、そんなこと言われても私はイベントに出るつもりは無いし」
「まあそうでしょうね。そんなちんちくりんな姿で人前に出ることなんて恥知らずなだけですものね。では、この勝負は私の不戦勝という事でよろしいですね」
「そもそもさ、私はコトハの勝負を受けるつもりは無いし。コトハはざっと見た感じこの村でも一番可愛いと思うけどさ、私には負けてると思うんだよね」
「その自信がどこから出てくるの変わらないですけど、勝負から逃げるって事でよろしいんですね。私はウェルティ帝国のお姫様よりも可愛いって事をお認めになるという事ですね」
「だから、そういう事じゃなくてさ。そもそもだよ、可愛いとか可愛くないとか人によって感じ方が違うんだから決めようが無いでしょ。ユイさんに決めてもらうんだったら納得するかな?」
「それはダメです。身内の判定なんて不公平ですよ」
「それを言うんだったらさ、アイドルイベントの審査員だってこの村の人なわけだし、それって事はの身内ってことになるんじゃないの?」
「それは言いがかりです。私は可愛くて綺麗で歌も踊りも上手ですけど、なぜか村の人に良く思われていないんです。去年も私は優勝出来なかったですし」
「もしかして、内面的なことに問題があるとか」
「そんなことは無いです。私に嫉妬した人が別の人に投票したと思うんですよ。あなたも私の事をこの村で一番だって言ってくれてますし、そうとしか思えないですよね」
何となく感じていたのだが、こうして押しの強い感じや高すぎる自己肯定感はコトハの性格を物語っているのではないだろうか。何となくではあるが、私の苦手な感じだと思えてならない。
私はコトハの圧に耐えきれなくて逃げたいと思っていたところ、ちょうど設計図を仕上げたユイさんが戻ってきたのだ。
「カトリーナ見てください。この舞台なら納得してもらえると思うのですが、いかがでしょう?」
ユイさんが見せてくれた設計図は完成イメージまで描かれていた。そのステージは今まで見てきた劇場に近いものがあるのだが、この場所の大きさと用意されている丸太の量を考慮してなのか割と簡素な印象も受けた。だが、村で行われるイベントの会場としてかんげると非の打ち所がないと思う。
「良いと思うよ。ユイさんは何でも出来るんだね」
「まあ、色々と経験してきてますからね。カトリーナの許しも出た事ですし、丸太の加工でもしておきますね。今日は加工をして終わりですけど、明日からは村の人達もカトリーナの晴れ舞台を喜んで作ってくれますからね」
「ん、晴れ舞台と言われてもさ、この村はウェルティ帝国の支配下にあるわけでもないし私は来賓でもないから挨拶なんてしないと思うけど」
「大丈夫ですよ。自分から立候補するのが恥ずかしいってのは知ってますから。私とカトリーナはそんなに浅い付き合いじゃないですし、カトリーナの性格だって熟知してますからね」
「いや、言っている意味が全く理解出来ないのだが。晴れ舞台ってどういうことだよ」
「だから、本来であれば村の住人でもなくこの国の国民でもないカトリーナはアイドルイベントに参加する資格なんて無いですが、私がこの会場の設計とこの地域を統括している色欲大魔王の勢力を削ぐことを条件にカトリーナの参加を認めてもらったんですよ」
「いやいやいや、そんなの頼んでないし。って、色欲大魔王の勢力を削ぐって何の話だよ」
「なんでも、この村はまだ平気なようなのですが、色欲大魔王の軍勢がこの国にも進行しているようでして、大きな町はほぼほぼ壊滅状態にあるそうなんです。そこで、ある条件を飲んでもらう代わりに私がその軍勢を退けることになったのです」
「ちょっと待って、その条件ってのが気になるけど、色欲大魔王の軍勢を退けるにしてもウェルティ帝国の軍隊は動かせないぞ。要請もきていないのに勝手にそんな事をしたら問題になってしまうじゃないか」
「大丈夫ですよ。私一人でどうとでもなりますから。何せ、私はあいつらに負けないくらい多くの経験を積んでますからね」
「確かに、ユイさんが強いのは知ってるけどさ。一人でどうにかなるもんなのかな。心配だよ」
「問題なんて何も無いです。いくら強いと言っても所詮は雑魚ですからね。私が前にいた世界に比べると蟻の方が驚異的でしたよ」
「それともう一つ気になることがあるんだけど、条件っていったい何?」
「それはですね、審査項目を一つ追加してもらう事になったのです。この項目が増えた事でカトリーナの優勝は盤石なものとなるでしょう」
なんだかとっても嫌な予感がするのだ。色欲大魔王の軍勢がウェルティ帝国に侵攻してきた時以上にイヤな予感がしていた。このまま何も聞かずに国に帰ってここへは二度とやってきたくないと本能が訴えかけてきていた。
「その項目とはずばり、“下着審査”です!!」
やっぱり聞かなければよかったと思った。さすがにコレを聞いたコトハもひいていると思ったのだが、なぜか私の事を見てニヤニヤしているのだった。
何となくコトハの考えている事がわかるのだが、それが的中しているとしたら私の予想通りにコトハ性格が悪いという賞めになるんだろうな。
「よかったわね。私との勝負が成立したみたいよ。それにしても、下着対決ってのは思ってもみなかったわ。だけど、ドレスに頼れないお姫様が私に勝てるとは思えないけどね」
やっぱりコトハって優勝出来なかったのは性格の問題なんだろうな。そう思っても間違いではないだろう。
「下着審査なんてやって大丈夫なの?」
「何の問題も無いと思いますけど。カトリーナは自分の体型に自信が無いって思ってるかもしれないですけど、私には十分魅力的に見えますよ」
「そういう事じゃなくて、人前で肌を晒すなんて宗教国家であるこの国の教義に反するんじゃないの?」
「さあ、この辺りはエルエル教の総本山からかなり離れているんで大丈夫なんじゃないですかね。それに、アイドルコンテストも今年が初めてってわけじゃないですからね」
「問題なのはアイドルコンテストじゃなくて、下着審査の方だと思うんだけど」
「その点なら問題ないと思いますよ。あとで直接私が偉い人に話を付けておきますから」
ユイさんが大丈夫というとそうなんだろうなと思うのだけれど、さすがに若い女性が人前で肌を晒すのは教義に反すると思うんだよな。エルエル教の事は詳しくないけど、そんな気がしていたのだ。
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