第68話 そりゃ仲間割れしてる奴らが、いきなり仲良くテーブルなんて囲めないよ!(訳:作戦会議の前哨戦だよ)

 登場人物


 六郎&リエラ:主人公とヒロイン。ここに書く必要ねぇだろ。というクレームが来るまでは出張るつもりです。


 クロウ:ジンやサクヤ達の元仲間。どんな事情か分からないが、二人の元を去り今は敵対中。合気道っぽい技を使う実力者。ちなみにまだ隠し玉も持ってる。


 サクヤとジン:周りのキャラが濃すぎて影が薄いが、泣くんじゃない。


 ☆☆☆


 前回までのあらすじ


 話をしに来たというクロウ。その話の途中作者の意向フル無視で殴り掛かる戦闘狂六郎

 元々参謀チックなポジションのクロウを、何とか知恵袋として招き入れたいリエラの仲介で一旦は休戦状態に。

 亡国の参謀は、暴走機関車二台リエラとロクローを上手く扱えるのか――


 ☆☆☆




 振袖を脱いだ六郎が、それを上下に軽く振る――「バサバサ」と小気味よい音と共に舞う土埃が小さな靄を作って消えた。


 そんな六郎を包む淡い光。


「……ホントにもう……無茶ばっかするんだから」


 聞こえてきた声に振り返ると、頬を膨らませるリエラの姿だ。


「見たことねぇ技ば使うとったけぇの」


 笑う六郎が振袖を再び肩へと羽織り直す。


「だからって、ワザと受け続ける必要ないじゃない」


 更に膨らむリエラの頬を、「性じゃ。諦めぃ」と六郎が突いた。


「いやぁ……イチャついてる所悪いんだけどさ……オジサンの怪我も治してくれないかなぁ?」


「だ、誰がイチャついて――」


 慌てて振り返るリエラの視線の先で、「イタタタ」と腰を擦りながら苦笑いするのはクロウだ。


 ニヤニヤするクロウに、頬を染めるリエラだったが……「いちゃつくっち何ね?」と眉を寄せる六郎を前に二人とも肩を落としている。


「嬢ちゃん……苦労してんのね」

「言わないで……って、だからそんなんじゃ無いわよ!」


 眉を吊り上げたリエラの頭を、六郎がポンと叩いた。


「何の話しよんのか分からんが、こんやら云う男が必要なんは何故じゃ?」


「そう言えばそうだったわね」


 片眉を上げる六郎を、見上げるリエラの頬は未だ少し朱に染まったままだ。


 六郎を見上げていたリエラが、その視線をジンへと投げた。その視線とかち合ったジンが、少しだけ俯きその拳を握りしめる。


 暫く震えていたその拳だが、それがジンの諦めたような溜息とともに、ゆっくりと解かれていく――


「ロクロー殿。その男、クロウは俺たちの元仲間なんだ」


 ジンの射抜くような視線が突き刺さったクロウは、「いやぁ嫌われちゃってるねぇ」とヘラヘラしながら頭を掻いている。


「その男は十年前に……サクヤ様のご両親が亡くなった後、我々を見捨てて出奔した裏切り者――」


 再び拳を握りしめるジンが、彼らの関係を説明し始めた――


 元々サクヤの両親に仕えていたこと。

 サクヤやジンにとって、年の離れた兄のような存在であったこと。

 少ない仲間達に頭を悩ましながら、興国のため、様々な案を出してきた参謀だったこと。

 サクヤの両親が亡くなった後、サクヤ達を残し行方を消したこと。

 再開した時には、ギルバートの使いっ走りをしていたこと。


「――再び会えた時は嬉しかった……だが、金に靡いてサコン様やシズカ様のご恩を仇で返すとは……俺達の悲願、国の再興を忘れたとは言わせないぞ!」


 話しているうちに、ボルテージが上がってきたのだろう。ジンが腰を落として剣呑な雰囲気を纏いだした。


 そんな剣呑な雰囲気の中、クロウは相変わらずヘラヘラと笑い――


「オジサンさ、気づいちゃったんだよ……


 ――ジンだけでなく、サクヤや護衛たちを馬鹿にするように見回している。


「出来もしない事に付き合うほど、オジサンお人好しじゃないのよ」


 嘲笑するクロウに、ジンの怒りが増幅していく――


「貴様――」

「止めぇや」


 飛びかかりそうなジンを制したのは、意外にも六郎だった。


「ワシが手打ちんした喧嘩やぞ? こん場でワシん断りなく死合うんなら、二人揃って黄泉路ば渡らしたるぞ」


 腕を組み二人を睨みつける六郎。その振袖の裾と髪の毛が闘気でユラユラと持ち上がっている。


 空気が重さを持つかのような重圧に、ジンが冷や汗を流し、クロウは「オーケーオーケー」と両手を上げて降参のポーズだ……流石にリエラに治癒してもらった全快の六郎と、満身創痍の自分では分が悪すぎると踏んだのだろう。


「……ジン。主ゃ勘違いしとらんか?」


 投げられた視線に、ジンが「勘違い?」と眉を寄せて六郎を見ている。


「こん九郎やら云うんが裏切った? 違うの。主ら……いやサクヤに引き止めるだけの器量が無かっただけやろう――アダッ」


 豪快に言い放った六郎の頭をリエラが叩き、


「ちょっともう! アンタは全方位に喧嘩売らないの!」


 眉を吊り上げプンスコ怒っている。そんなリエラに六郎が「叩くことはねぇやろうが」と頭を擦り口を尖らせた。


 今も「言い方ってのがあるのよ」、「知らん。興味なか」と言い合う二人に、ジンは一瞬見開いた目をスッと細めた。


「ロクロー殿……いかに貴方と言えど、俺の主君を馬鹿にするのは――」

「ジン! 良いのです。ロクロー様の仰るとおりなのですから」


 再び剣呑な雰囲気を出したジン。その肩をサクヤが掴んだ。


「ですが、しかし――」


 納得がいかないジンが、サクヤを振り返るが、視線の先でサクヤは真剣な表情で首を振るだけだ。


「ロクロー様の言う通り、臣下を養っていくだけの甲斐性がない私が原因なのです。生きていくため、クロウが下した選択を私達が非難する事はなりません」


 サクヤの言葉にジンは「……はい」と小さく呟き項垂れている。


 そんな二人を見て、口角を上げた六郎が


「エエ主君やの。日の本に居ったんなら全力で仕えとったかもの」


 とリエラにしか聞こえないような小声で呟いた。


「そう思うんなら虐めちゃ駄目でしょ」


 笑う六郎をジト目で見上げるリエラ。


 サクヤとジンを眺めていた六郎が、視線をクロウへと――先程までのヘラヘラ顔ではなく、どこか険しい顔で六郎を見ていたクロウが、視線に気が付き慌ててその顔をヘラヘラとしたものに。


「いやぁ……青年。君は心底恐ろしいね……こんな死にぞこないのオジサン脅すとか」


 ヘラヘラ笑うクロウだが、どこかそれに六郎が呆れたように大きく溜息をついた。


「九郎。主ゃ――いや、止めじゃ。ワシんがらやねぇし、興味もねぇけの」


「それは助かる――」


 腕を組む六郎を前に、肩を竦めたクロウが苦笑いをこぼした。


「――オジサンだって、青年みたいな危ない奴より、グラマーでセクシーなお姉さんに興味持たれたいからさ」


 ヘラヘラと笑うクロウに、今までのような妙なキレが戻って来た。


「そらぁ残念やの……主ん本気には興味があるけぇ、話ば終わったらまた殺り合おうやねぇか」


 不敵に笑う六郎に、「いやいや勘弁」とクロウの苦笑いは止まらない。




 笑い合う二人の間に流れる奇妙な沈黙。



 それを破ったのは――


「九郎とやら。これだけは云うといたるわい」


 ――腕を組み直し、表情を真剣なものへと変えた六郎だ。


「主が何処で何をしようと、何を思って出奔しようと、好きにしたらエエ。ただ――」




「――ただ?」


 言葉を切ったまま、その顔を不敵な笑みに変えた六郎に、続きを促すようにクロウが言葉を返した。


 その表情はヘラヘラとしたものだが、何処が余裕がなさそうにも見えなくない。


「――ただ――」


 それだけ言うと六郎は踵を返して小屋へと歩き出し、途中に立ち止まるジンの肩に手を置いてクロウを振り返った。


「――ワシはコイツらなら……ジンとサクヤなら出来るっち思うとるぞ」


 自信に満ちた六郎の笑顔に、ジンが「ロクロー殿……」と呆けた表情を返している。


「まあ、何にせよ話し合いやらが先じゃな」


 そう言って振袖を翻した六郎が、ジンの肩を軽く叩き一人掘っ立て小屋の中へと消えていく。


 そんな六郎を見ていたリエラが小さく溜息をついて、クロウを振り返った。一瞬だけ見えた強張った形相のクロウに、リエラが口を開く。


「あなた…………ま、良いわ。アタシも興味ないし」


 肩を竦めるリエラに、「……若者は夢見がちだねぇ」とクロウも表情を崩して肩を竦めてみせた。


「とりあえず、ご同行願えるかしら? 知恵を借りたいのよ」


 ジト目のリエラに、「なんなりと」と観念したようにクロウが諦めたように歩き出す。

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