第23話 タキア村の美少女

——私は驚きで固まっていた。


私が祈り、助けを懇願したのと同時に音を立てて目の前に現れた、謎の黄金の鎧。


砂煙の中でその姿はとても輝いて見えた。

さっきまでのオークたちは何が来たのかわからない様子だった。


私は驚きが隠せなかったが、同時になぜか安心感があった。


その黄金の鎧の人は私とカイトのほうを振り返り見たが、また視線をオークたちのほうに戻す。



——私たちは遠いギルドへと馬車を使って依頼を出しに来ていた。


私と他に幼馴染のカイトと兄のタイガ、親友のユイ、その他の傭兵団の人たちとともに調査の依頼をお願いしに来ていた。


兄やカイトたちは待っているからとギルドから少し離れたところで別れた。


私は一人でギルドに向かっていく。その道中すれ違う人の目が気になる。すれ違うたびに私を珍しそうに見てくる。

私は極力目を合わさないように下を俯き、身を隠すように歩いていく。


ギルドについたとき、やっと安心感を得たような気がした。


安堵のため息をついて入ろうしたら、男の人がドアの前で行ったら来たりとしていた。

私はその男の人を見て驚いた。


その男の人は私たちと同じ黒い髪の毛に黒い瞳をしていたのだ。


……私たちの他にもいるんだ!


私はほんの、いやとても気持ちが楽になった。


私はその人に声をかけていた。なんでかわからないが、とても親しみが込み上げてくる。


「…あの、ここは冒険者ギルドですか?」


男の人は私に声をかけられてびっくりしたのか声が震えているように聞こえた。


すると男の人は私を見て固まっていた。


…あ、私、何か悪いことしたかな。


「…あの、大丈夫ですか?」


男の人は落ち着いたのか笑顔で私に大丈夫と言ってくれた。


…よかったぁ、笑ってくれた!


すると私は自分の用事を思い出して急いでギルドに入って行った。


…あ!何も言わずに入って来ちゃった!

……まあ、でもどこかで会えるかな。


私はそのまま受付へ行って依頼をお願いするが、冒険者の派遣の日にちがかかりすぎることに納得ができなかった。


なんとしてもすぐに来てもらいたいのに受付の人はそれは難しいの一点張りだった。


私は自分でもわからないくらいに興奮していた。今考えれば異常だったかもしれない。


「もういいです!失礼します!」


私はそう言い残してギルドを出て行った。


ギルドを出てからしばらく呆然としながら歩いていた。

頭が少しずつ冷静になっていくと、だんだんと後悔の波が押し寄せてきた。


私は兄やカイトたちのいるところへ戻った。

すると兄やカイトが駆け寄ってきてくれた。


けど合わせる顔がない、私は途端に涙が溢れ出してきた。


兄やカイトたちは泣きじゃくる私を見て察してくれたのか何も言わず頭を撫でてくれた。


申し訳なかった、唯一の救いを自ら断ち切ったようなものだ。


私たちはそのまま馬車に乗り、夜の村を出て行った。


馬車に乗ってる間も私は失意のまま膝を抱えて俯いていた。


目を開けると、朝日が昇っていた。

どうやら私はいつのまにか眠っていたようだった。


馬車は二日続けて走っていたので、この大草原で食事休憩を取ろうということになった。


私はとても食欲がなく、膝を抱えたまま俯いていた。

兄たちは私を気遣って食べ物を渡してくれるが手をつけずにいた。


……もう、消えていなくなりたい。


そう思ったのと同時に兄の叫ぶ声が聞こえてきた。


オークの襲撃だった。私は目の前の光景に目を疑った。


もしかして自分が願ったからこうなったのではないかと、私のせいでみんなが傷つく。


まだ村にはみんながいる。里のみんなが私たちの帰りを待っている。

まだ村を守らなきゃいけないんだ。


「…お願い、神様、助けてください」


私は気付けば祈っていた。

祈っていたとしても誰かが来てくれるのかわからない、だけどもし願いが届くのであれば


……誰か、助けて……。



すると、目の前で地響きが起こり砂煙が舞い上がっている。


私の願いが届いたのだろうか、神様が助けに来てくれたのかと思うくらいにその人は私たちの前に現れた。


黄金の鎧を着たその人は私とカイトが乗る馬車とオークたちの間を遮るように立っていた。




——大草原、オーク襲撃にて—


オレは上空からそのまま馬車の荷台とオークの間に降り立った。


……ふう、なんとか間に合ったな。


オレは後ろを振り返ると和風美人とイケメン和風男子が荷台に乗っていた。


和風男子はオレを見てかなり睨みながら剣を向けてくる。


…うわぁ、めっちゃ睨んでるな、この男。

…まあ、いきなり空から現れたら警戒するのも無理ないか。


オレはそう納得したあと、オークの方へと向き直ると、オークもまた鼻息を荒くしてオレを睨みつけてた。


…いや、お前らもか!


オレはゴールドアーマーで戦闘態勢に入ると

それを合図にオークの一匹が襲いかかってくる。


オークは持っていた棍棒を振り下ろしてくる。

オレはそれを交わして右アッパーを喰らわせるとオークは思いっきりどこかへ飛んで行った。


…あ、やべ、やりすぎたか?


すると他のオークたちも興奮して一気に襲いかかってくる。


オークたちの襲撃を一匹ずつ確実に倒していく。

炎弾を使ったり、遠くへ投げ飛ばしたりと倒し方はそれぞれだが、残り数匹となっていくとオークは怖気づいたのか一目散に逃げていく。


…よし、撃退成功!


オレは密かにガッツポーズをとる。

オークとの一戦が終わり、馬車のほうを見るとなぜか全員がオレに剣を向けて構えていた。


……え、なんで?


オレは呆然とするしかなかった。


「貴様!何者だ!」


タイガがゴールドアーマーのトビに鬼気迫る表情で問いかける。


…ええ、めっちゃ警戒されてる!


オレは考える。

確かにいきなり出てきてオーク撃退しました。ありがとうございますとお礼されると思っていたが、こういう展開になってしまった。


よくよく考えればこのアーマーは異世界人にとったら未知の領域の話だ。

そうだ、オレが間違っていた。ここで名乗ってこそかっこよくなるものだ。


「ああ、オレは………、ゴールドアーマーだ。よろしく!」


とボイスチェンジャーを使い、しゃべる。


「ゴールドアーマー…?ふざけてるのか!」


…あれぇ?さらに怒らせちゃった?

…なんでぇ?


そうかアーマーを着ているからか、これを脱げば好感持ってくれるだろう。


オレは納得してアーマーを自動装置でハズす。


アーマーが身体から外れて空にある保管庫へと登っていく。


剣を構えていた男女数人はアーマーが登っていくのを目で追うように見ていた。


その後オレに目を移すと驚きの表情で固まっていた。


「あ、オレは怪しものじゃない、実は、その……」


「あ!あなたは……!」


とあの和風美人がオレを指差して思い出したように言う。


「ユウナ、知ってるのか?」


和風イケメン男ことカイトがユウナに驚いたように問いかける。


「確か、…ギルドでお会いしましたよね…?」


「ああ、そうだ。オレはトビって言うんだ、よろしく……!」


オレは驚きと動揺で慌てて自己紹介をした。

だが、少し嬉しかったのもある。


だってよく考えてみてくれ、今まで女性と全く縁のない、あのオレが!


和風美人に顔を覚えててもらったんだぞ!

こんなに嬉しいことはない……が、あの和風イケメン男が隣りにいるから素直に喜べない…。


「実は、そのユウナっていう人が出した依頼を受けてここに来たんだ!あなた方はタキア村の方ですか?」


オレが依頼のことを口にすると、ユウナさんは急に目に涙を浮かべ始めた。


「えーっと、なんで泣いてるんですか?オレ、何か変なこと言いました?」


オレは自分が気づかないうちにまた傷つけるようなことを言ったかと思い、焦っていたが

ユウナさんは泣きながら首を横に振った。


「……では、なんで?」


「…嬉しい、…です、…とても、…嬉しい、…です、…ありが、とう、…ございます」


するとユウナさんはそれを言い終わると同時に子供のように泣き出したのだ。


オレはパニック!…に陥っていた。

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