第24話 装備修理はお手のもの
——オレはパニックに陥っていた!
オレが依頼を引き受けたと報告するといきなり子供のように泣きじゃくっていた。
オレは呆然と固まって見てるしかなかった。
その仲間の人たちはユウナさんを落ち着かせているうちにユウナさんの兄だと言うタイガさんが事情を説明してくれた。
「実はここ最近、うちの村が何者かに襲われているんだ…」
「ええ、それはギルドでは聞きましたが…、他には…?」
「それを探ってもらおうとギルドまで行ったが……」
いつ冒険者が派遣されるかわからないと言われてあえなく失意のまま帰ろうとしてた、というわけか…。
オレはふとユウナさんを見る。
女性の仲間の人に横にいて背中をさすってもらいながら少しは落ち着いていたように見える。
「だからあんなに泣き出したのか…?」
「ユウナは昔から泣き虫でな、今回の件は自分にも責任があると思いこんでるみたいでな…」
「どういうことですか…?」
オレはタイガさんのその言い方に何か疑問を抱かずにはいられなかった。
「ユウナは魔物を引き寄せやすい体質なのか、小さいころから襲われていたんだ」
…おおっ!それはなんとも不運な体質…。
「それはまた嫌な体質ですね…」
「ああ、だから外に出るときは俺か、カイトがそばにいるのが当たり前になっているんだ。ユウナのやつ、それを自分のせいだと思いこむ節があってな、俺たちは好きでやっていることなのに……、心配性なんだよ」
タイガさんはユウナさんを見る視線は妹を大切に思う目をしていた。
「だから今回の件も自分が魔物たちを引き寄せてるんじゃないかって感じてるんだ…」
「そうでしたか…」
なるほど…。正体不明の何者かの村の襲撃か。
他に情報は何もないみたいだな…。
「しかし驚いたな、俺たちみたいな人種があの村にいるとはな…!」
タイガさんはオレを見て嬉しそうに笑いながら言う。
「ああ、そうですか…」
「ああ、その黒い髪と瞳は俺たちの村以外では見かけないからな!」
確かにオレがいた日本もそうだったな。
さまざまな世界中の人たちがいたから不思議には思わなかったが、この世界では珍しいものなのだろう。
「あ、あの……」
「はい……」
すると別の人がオレに声をかけてきた。
振り返るとそこにはオークに襲われそうになった女の子が立っていた。
その子は黒い長い髪を短く束ねており、忍者に近い格好をしていた。
「ユイと言います。助けていただきありがとうございました!」
そう言ってお礼をしてニコリと微笑んでくれた。
「ああ、無事で何よりです」
オレはユイさんやタイガさん、その他の人たちをチラッと見る。
ほんとにこの世界は美男美女ばかりだなと自分を卑下したくなる。
オレは中の中で普通の顔をしている。
合コンに行ってもおそらくオレは女性といい感じになることはないな…。
「はぁ……」
「どうされたのだ、トビ殿」
「…いや、…なんでもないッス」
タイガさんの横でがっかりしてため息をつくのだった。
——タキア村に向かう馬車にて—
オレはタイガさんのご好意で一緒に馬車に乗せてもらうことにした。
馬車は全部で二台あり、オレは後方の馬車に乗っていた。
タイガさん曰く、タキア村までは先ほどの草原からは三日ほどかかるらしい。
オレの空中保管庫で連れて行くこともできるが、あくまで武器の保管で造っているから人を乗せるとかなり重量オーバーになってしまう。
仕方ないがオレは馬車に乗ることにした。
だが居心地悪い、その理由は今オレの目の前にカイトというイケメン野郎が座っているからどうも嬉しくない。
その上ユウナさんは泣き疲れたせいか、そのカイトに寄りかかって寝ているからめちゃくちゃ見せつけられてるみたいでヘドが出る。
オレはあまり見ないように別のところへ視線を向けるとカイトの装備が目に入る。
その装備は戦うにはあまりにもボロボロで役に立ちそうにないほどだった。
…うーん、目に入ったからにはどうも装備の手入れをしたくなってきたな。
…よし、こいつに一つ貸しでも作っとけばこれからの接し方は楽になるかもな。
「カイトさん、……でしたっけ?」
「…はい、なんでしょうか?」
「その装備はいつも使っているのですか?」
「そうですね。僕にとってはこれは宝物ですから…」
そう言って装備を思い出に浸るようにさすりながら答える。
「宝物…?」
オレはその表情と言葉が気にせずにはいられなかった。
「はい、これは父から譲り受けたものなんです…」
…だがあまりにも手入れをしてなさすぎだろと思ったが口には出さず自重する。
「そうなんですか?…だから少し年季が入っているんですね…」
「ええ、…ただみんなからは装備を直せってよく言われるんですけど…」
そう言って自虐しながら笑う。
「そんなの当たり前だよ、けっこう使ってるよね、それ…」
ユイさんはよくぞ言ってくれたみたいな顔をしてカイトに呆れた感じで言う。
「……だけど、そうは言っても、新しくするには遠い街まで行かなきゃならないし…」
そう言って困ってるんだと言わんばかりの顔をする。
カイトは以外とめんどくさがりの性格のようだ。
…少しオレと似てて、親近感が湧くがイケメンだから、なんかムカつく。
「…確かにね、うちの村に鍛治屋さんなんていないしね…」
ユイさんはそう言ってため息をつきながら肩を落とす。
…村に鍛治屋がない!…なんで?
オレはユイさんがさも聞いてくれと言わんばかりのことを言うので気になって仕方ない。
だから聞くことにした。
「どうして鍛治屋がないんですか?」
「いや、前はいたんだよ!ちゃんと…。けど
鍛治屋の職人さん、おじいちゃんだったからさ…、しかも跡取りもいないからその人がいなくなったら鍛治場なんて、ただの物置小屋になっちゃった…」
…うわぁ、かわいそう。おじいちゃん、大変だったんだな。
「それならなんで弟子を取らなかったんですか?」
「おじいちゃん、頑固だったから。ワシより優れた弟子はとらんの一点張りでさ…」
…ああ、なんて傲慢で頑固なジジイだ。
…同情したのが、恥ずかしい。
「…なら、オレが装備直しましょうか?」
「え!?…直してくれるのですか!?」
カイトは驚きながらオレの目の前まできて言う。
…いや、顔近けぇな!
「まあ、それくらいでしたらなんとか…」
「本当ですか!ありがとうございます!」
オレがそう言うとカイトは満面の笑顔で向けてくる。
…うわ、イケメンの笑顔って破壊力やばいな。
…殴りてぇ。
オレはカイトの装備を受け取り、修理魔道具を取り出すために腕につけてる魔道具で空中武装保管庫に指示を送る。
「トビ殿、一体何をしたのですか?」
カイトはオレの動作を見て不思議で首を傾げる。
「ああ、今これで修理魔道具を運んできてもらうようにしたんですよ…」
「…運んで?…ちょっとよくわからないですね…」
ユイさんもカイト同様に首を傾げる。
二人ともよくわからないという表情だ。
まあ、それは見ればわかるもうすぐその意味かわかるはずだから…!
「……っが!?」
だがオレはマジで意味がわからなかった。
突如、頭を思いっきり殴られるような感じで修理魔道具の入った箱がオレの頭に向かって飛んできた。
オレはその勢いで倒れて、痛みで悶えながら頭をおさえてうずくまる。
目の前にある修理魔道具の箱を見てこんなに殺意が湧いたことはこの先ないだろう。
修理魔道具を入れてる道具箱を開き、道具を取り出して装備の修理にとりかかる。
オレはトンカチ、ヤスリ、他にもさまざまな
道具を使って装備を直していく。
カイトはその行程をじっくりと真剣に眺めているが、オレは気にせずに作業を進めていく。
トンカチで凹んだ部分を叩いて修復したり、棒ヤスリで細かい汚れを削り落として、穴が空いてる部分はオレが持参した鉱石で補修して、最後に紙のヤスリで装備の端の部分を綺麗にして修理完了。
「よし、できま…し、たよ?」
オレが顔を上げるとカイトだけじゃなくユイさん、さっきまで寝ていたユウナさんがオレの装備修理を見ていた。
「すごい…………」
「あ、あの……?」
「すごいですね!トビさん!」
ユウナさんは興奮したようにオレの手をいきなり握ってきた。
ああああ!!!…ユウナさんがオレの手を!?
オレはそのまま思考回路停止した。
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