第22話 遠すぎる
——オレはとある和風美人の依頼をアイシャさんから引き受けていた。
それを彼女に伝えようと思ってたが、イケメン和風男子と泣きながら話してたのを見てオレはその場から離れた。
別に胸は傷まなかった。…慣れ、だろうか。
—地下、オレ帝国にて—
いよいよ
これはいつでもどこでもゴールドアーマーを保管できる便利なものだ。
オレはゴールドアーマーで戦うのがお決まりだが、いつもこれを装備しているとなかなか不便なものがある。
それにこれならいつでもさまざまな武器が呼び出せるからな。
いわば空間魔法というものだろうか。
この空中武装保管庫は常にオレの真上に飛ぶように設定してある。
アーマーを呼び出すときには保管庫と連動しているこの小型スイッチを押せば、保管庫の扉が開き、アーマーがオレの元へ飛んできて
瞬時に装着できるのだ。
これを造っているときにふと思う。
完全にマー○ルヒーローのアレみたいだと。
空中武装保管庫の最後の整備をしたあとにハルさんに遠出をすることを言ってからタキア村に向かうのだ。
地下からタキア村までは馬車でおおよそ
七日以上かかってしまうが、ゴールドアーマーはそれの半分、いやもっと短縮できるはずだ。
「結構遠いところだからな……」
オレはゴールドアーマーを装着して翌日の朝に飛びたった。
朝の風はどこか涼しく心地よい風だった。
空を飛びながらあの二人の姿を無意識に思い出してた。
……ああ、やめろやめろ、考えるな!
……オレは一体何回、同じ失敗をすればわかる。そうだ、美人な女性には必ず優しくてイケメンな彼氏がいる、それを忘れるな!
日本で何度も経験しただろう。オレは一生、女性に縁はない。
ハルさんは男の娘だからセーフ、アルエさんはカッコイイ系女子だからセーフだ。
だが今回はマジの男女の関係みたいだった。
オレはため息がでる。この世界に来てオレは何回ため息ついて失恋してんだろ?
——出発してから一日、オレはまだタキア村には到着していない。
夜から朝になって日の光が出てきたので、オレはアーマーを脱ぎ、空中武装保管庫の中で一休みしていた。
オレはその中で切実に嘆いた。
「……遠すぎる!」
いや、遠いのは知っていたが、こんなにも遠いとは……予想外。
昨日の朝に出てから半分は進んだが…。
まだ半分だ。ジェット機並みの速さを持ってしてもこんなに遠いとは、少し侮っていた。
どこかの森の中でオレは一人寂しく朝を迎えていた。
「……ん?……なんだ?」
しばらくしてから何かが鳴る音で目が覚めた
どうやらオレは眠っていたようだ。
その音に耳を向けると保管庫の音だった。
「これは……、敵感知!」
オレはすぐにアーマーを装着して、保管庫から出て辺りを見渡す。
すると敵感知の方向は前方300メートルほどの
物を感知した。
森の中だからはっきりとは見えないが何かがいるということはわかる。
「ズームイン!」
ズームインで近づけると、馬が二体見える。
どうやら馬車のようだ。
「…なんだ、馬車か。……って、ヤベェ!?
保管庫、隠さなねぇと!」
オレは急いでアーマーのまま保管庫に乗って
起動させると保管庫は魔力を使って上空へゆっくりかつ慎重に音を出さずに飛び立つ。
保管庫を上空に移動してから数分後に馬車が通っていくのを確認した。
「……あっぶねぇ、ギリギリ助かったな」
オレは安心してホッとする。
ふと馬車の中が気になったので少しだけ盗撮してみようと思う。
これは健全なことであり、決してエッチな目的でやっているわけじゃない。
オレはそう心の中で納得してズームインで馬車の中を見てみる。
馬車の後ろが見えたのでそこを拡大すると、
あの和風美人とイケメン和風男子が向かい合うように座っていた。
その他にも何人かが一緒に乗っているようだ。
ただ、その表情はあまりにも暗く悲しい表情をしていた。
馬車の中は重苦しい雰囲気が漂っていた。
…なんか見ちゃいけねぇもん見た気がする。
オレはそのまま放っておこうと思ったが、その馬車が気になり、ついて行くことにした。
と言っても上空から馬車を見ながら同じスピードでついて行くだけだ。
しかし、なんであんな暗い雰囲気になってんだ。もしかして依頼を引き受けたってこと知らないのか?
なんかギルドで揉めてたしな……。
まあ、依頼はオレが引き受けたからタキア村に着いてから報告すればいいか……。
オレはその馬車を天の上から眺める神様の気分だった。
しばらくして馬車は森を抜けて、大草原が広がる砂利道に出た。
そこで馬車は止まり、中に乗っていた男女数人が降りてきた。
どうやら休憩をするようだ。まあ、村まで七日もかかると言ってたからな、なのになんでうちのギルドまで来たんだろう。
そんなことを考えていると何やら騒がしいことに気づいた。
オレが下を見てみると、馬車を囲むような形で男女数人の人たちが魔物と戦っているようだ。
しかもオークが数匹が馬車を襲おうとしている。
オレはそれを見てすぐに保管庫から真っ逆さまに直下していく。
——突然の魔物の襲撃で戦っている者たち。
長い帰還での馬車の移動で疲れた身体を休ませるために広く心が落ち着けそうなところに止めたのが悪かったのか、そこはどうやら魔物の狩場としての場所のようだった。
「まずい!固まれ!絶対にはぐれるな!」
黒い短髪でまさに体育会系の熱血と感じさせる男が周囲に呼びかける。
「カイト!お前はユウナちゃんを守れ!」
「わかってるよ!ユウナ、こっちだ!」
カイトと呼ばれる青年は和風美人の女の子と一緒にいたイケメンの優男だった。
そしてそのカイトが守るように手を引かれて馬車の中へと入っていくユウナと呼ばれる女の子がトビが3回目に見惚れた和風美人だった。
「全員、ユウナちゃんを死なすなよ!」
「おおっ!!」
男四人と女三人の傭兵団のような者が武器でオークたちを倒していくが、数が多いためかなり手こずっているようだ。
「兄上!」
ユウナが涙目で体育会系の男を呼んでいる。
「大丈夫だ!お前はそこにいろ!」
「だけど……!」
「安心しろ!すぐに終わらせてやる!」
「タイガさん!加勢します!」
「ダメだ!お前は来るな!」
カイトは自分も戦ったほうがいいと思ったのだろうが、タイガという男はそれを制止する。
「きゃあ!!」
「…っ!?ユイ!」
ユイと呼ばれた女の子がオークの恐怖で足がすくんで動けないでいた。
「ユイ!ユイ!」
ユウナが必死に叫ぶもその女の子には届いていないのか全く返事がない。
「ユイ!逃げて!早く!」
「あ……、あ……、ああ……」
何度呼ぶが返事はなくそれはもう絶望というのが似合うほどに追い込まれていた。
助けようにも他の傭兵は手がいっぱいだ。
カイトが行くとユウナを一人にさせ、狙われる可能性があるため動けない。
魔物たちは悠長に待ってはくれない、じりじりと一歩ずつ近づいてくる。
「……お願いです、神様、助けてください」
ユウナは手を合わせて祈るように願う。
ユウナの頬に一筋の涙が伝う。
もう終わりかと思ってた……が!
まるでタイミングを測ったかのように
何かが近づく音がする。
ゴォォォォォォォというジェット機のような音とともに何者かが上空から降り立ち地響きを立てて現れる。
それまで均衡状態だった戦闘がその音によって止まった。
女の子に近づこうとしていたオークも足を止めている。
ユウナの祈りが届いたかのように突然現れた黄金の鎧が砂煙の中で赤眼の目を光らせるとともに姿を見せる。
ユウナは放心状態に近い感じで驚いていた。
目の前に現れたのは救世主というのが似合うどうかはわからないが、ユウナやその他傭兵団にとってはそう呼んでも構わないだろう。
さあ、黄金の
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