第21話 和風美人
——地下、オレ帝国作業場にて—
オレが昼のひと時を満喫しようとすると、作業場にけたたましく鳴り響くギルドからのメッセージに少しだけ苛立ちを覚える。
「はあ……、ったく誰だよ」
作業場の休憩場の椅子からため息をついて立ち上がり、鬱陶しく鳴る音を止めてメッセージを開くとそこにはアイシャという文字が目に入る、……やはりか。
そのメッセージにはこう書かれていた。
『今すぐ来い、ダッシュで』と、一言。
「うわぁ………」
オレはこの文面を見てなんか行きたくねぇなと思ってしまう。
明らかに仕事中に書いた受付嬢の言葉ではないと思うのだ。
「……アイシャさんから?」
「……ええ、そうですよ」
ハルさんは心配そうに聞いてくる。
ハルさんはオレの顔が嫌そうな感じに見えたのかズバリと当ててしまった。
「なんか面倒くせぇから、行きたくないんですよね………」
「それはダメだよ!何か大変なお仕事かもしんないよ!」
「えぇぇ…………」
ハルさんは椅子から立ち上がって背中を押してくれるように言ってくれるがオレにとってはそれが一番の苦痛、なぜならハルさんの純粋な瞳で言われたらもう行くしかないのだ。
「まずは話を聞くだけでいいから、その後は
トビくんがやるかやらないかは決めていいから、ね!」
「………わかりました」
「うん、よろしい!」
ハルさんはニコッと聖女のように微笑んでくれるがオレはどうも嫌な予感しかしない。
ハルさんは知らない、オレに断ることなんてできないことをギルドへ行く、つまり依頼を引き受けるということになってしまう。
それがどうにも嫌で嫌で仕方ないのだ。
オレはため息をつきながら渋々ギルドへと向かうのであった。
—冒険者ギルド—
オレは冒険者ギルドの前でどうもこの扉を開けるのを
オレがギルドの前で右往左往していると、声をかけられた。
「あの、ここは冒険者ギルドですか?」
「あ、はい、そうです……よ」
オレはまた言葉が辿々しくなってしまった。
オレに声をかけてきた人が女性だったからだ。オレはその女性に見惚れしまった、いや驚いたと言ってもいいだろう。
その女性、いやオレと年が変わらないかもしれない女の子の格好は和服の着物を着ていたのだ。しかも黒髪に黒の瞳、オレが日本にいた頃に何度も目にしていた格好だった。
開いた口が塞がらないとはこういうことだろうな……。
「…あの、大丈夫ですか?」
「……ア、ハイ、ダイジョブデス!」
なんともびっくりしすぎてカタコトになってしまった、…恥ずかしい。
そのまま和風美人はギルドへと入って行った。
オレはしばらく呆然としていた。
和風美人、艶のある黒髪ショートボブで黒いつぶらな瞳でそしてハルさん同様で白い肌、…まさにヤマトナデシコ!
まさかこの世界で見かけるとはな、世の中は広いもんだ。
オレはとりあえず深呼吸して落ち着いてからギルドの扉を開く。
……平常心、平常心だ。
何事もなかったかのようにギルドに入って行くと、ギルドの受付で和風美人とアイシャさんが話し込んでいた。
オレはギルド内の食堂の椅子に座り、その様子を伺う。
アイシャさんは何か困っている様子に見えるが、何を話してんだろう?
和風美人の女の子は何やら焦って話している様子だ。どうやら深刻そうな話だな。
オレは聞き耳を立てるように聞いているが、ところどころ聞き取れない、これはもうちょっと近くに、いや行ったらめっちゃ怪しまれるな…。
「もういいです!」
そんな自問自答をしていたら、和風美人が声を荒げた。
オレはびっくりして身体がビクッと飛び跳ねたのだ。
……うわぁ、めっちゃ怒ってるじゃん。
……アイシャさん、一体何したの?
オレは内心ビクビクしながらそれを見る。
女性に見惚れやすいオレだが唯一、女性が怒ってる姿を見ると臆病になってしまう。
「それでは失礼します!」
オレが行こうか行かないか悩んでると、和風美人は怒ったまま早歩きでギルドから出て行った。
オレはそれを見てるしかなかった。
和風美人の女の子が出て行ったあと、アイシャさんはため息を深くついた。
「……アイシャさん」
「……あら、トビくん、どうも」
アイシャさんは完全にお疲れのようだった。
そりゃそうだろ。あんだけ怒られたんじゃ、疲れるのは当然か。
「お疲れのようですね……」
「ええ、そうよ。全くトビくんがドアの前でうろついてないでさっさと入ってきてくれたらこんなに疲れなくて済んだけどね…」
「うっ!?……すいません、どうもその気になれなくて……」
「人の話を盗み聞きとはいい度胸ね…」
アイシャさんの笑顔が怖い。
これは引き受けなければ殺されるかも……。
「……で、どんな依頼だったのですか?」
「……知りたい?」
オレが頷くとアイシャさんは先程の和風美人の依頼を話してくれた。
「実はあの子の村で人身被害が出てるらしいの……」
「人身被害……」
「ええ、あの子の住んでる村はタキア村というところでそこの村長の娘さんなの、最近その村で人が襲われるという事件があったらしいの、しかも一週間のうちに何回も」
「……そんなことが」
「…幸い怪我人もいないみたいだからよかったけど、これ以上は見過ごせないということになって調査依頼を出してきたっていうわけ」
「ああ、それであんなに怒ってたのか!」
オレが納得した感じで言うとアイシャさんは
ため息をついた。
どうやらアイシャさんは相当ストレスが溜まっているようだ。
オレは密かにアイシャさんに幸あれと願った。
「……けど、そんな心配は消し飛んだわ」
アイシャさんは何か吹っ切れたような生き生きとした表情になっていた。
「どういうことですか?」
「フッフッフ!トビくんさ、とある鉱山の石を探しているって言ってたよね!」
「ええ、そうですね……、まさか」
「そのまさかよ!」
アイシャさんはそう言いながらあの不気味な笑顔できゃぴきゃぴしている。
この笑顔がほんとに怖い……。オレは嫌なこと予感しかしなかった。
「トビくんが探してる鉱山石がタキア村の近くにあるのよ!」
……ああ、やっぱり。
「それを伝えようと思ってトビくんを待ってたらなんと幸か不幸か、あの村からの依頼が来たのよ!」
まあ、確かに探してたのは探してたが、こんな感じで知りたくなかったな…。
だが、アイシャさんの言う通り幸か不幸か向こうから来てくれたんだ。乗らない手はない。
「わかりました。引き受けましょう!」
「よし、話が早くて助かるわ!それじゃ、報酬は……」
「鉱山石で大丈夫です」
「そう!なら交渉成立ね!」
オレはタキア村の依頼とともに鉱山石を求めて行くのだった。
オレはギルドから出て辺りを見回す。
…もう、あの子帰ったかな。
オレはしばらく村を探していた。
あの子に会ったら依頼の件を引き受けることになったからそれを伝えようかと思ったが、もう帰ったのだろうか。
オレは諦めて帰ろうとすると、路地裏にとある人影を見つけた。
その人影は二つ並んで見えた。
オレは近寄って見るとあの和風美人ともう一人の影がある。
それは男だった。太陽の光が反射して影になっているが間違いなく男だ。
その男と和風美人は何やら話し込んでいる様子だ。
オレは声をかけようと思ったが、なぜかできないでいた。
それがなぜかわからないが、オレの目には和風美人は泣きながら話している。
男は和風美人を優しく頭を撫でて深刻そうな顔をしていた。
すると男のほうから和風美人を抱き寄せた。
二人はそのまま抱き合う形になっていた。
……まあ、だよねー……。
とびっきり美人にはイケメンで優しい男がいるんだな……。
はあ、ホントにオレには女性の縁なんてないんだ。
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