第17話 村の危機

——ローウェン村に魔物が現れた。


オレはそれを聞いても余り行く気にはならなかった。


ハルさんはそんなオレを寂しそうな目をしていた。


「もう人助けは嫌になった?」


「……いや、それは」



いや、別に人助けが嫌になったわけじゃない。

そうじゃないが、なぜか怖気づいてしまう。


その理由はオレ自身わかってる。


マリアさんの件をいつまでも引きずっているんだ、女々しく。

男らしくもない。


「トビくん!」


バチンッ!!

すると急にハルさんはオレの頬をビンタしてきた。

オレは呆然としていた。

いや、これくらいされて当然だと思った。


しかしハルさんはいつもの屈託のない笑顔で微笑んでいた。


「トビくんはどんなことがあっても助けてくれる、ボクはそう思ってるよ……」


まるでオレが助けてくれるのを信じてるかのように言っている。


そう言ってくれるのはありがたいが、今のオレにそんな自信はない。


「…それとも、トビくんは人を選んで助けているの?」


「いや、そんなことは……」


そんなことはないとは言い切れない。

この前アルト村を助けたのはハルさんのためでもあったから。

だが今回は顔も知らなけれは名前すらわからない村だ。


それでもオレが行くべきなんだろうか?


「トビくん、君は気づいてないだろうけど、君が救ってくれたアルト村の人たち、みんなトビくんに感謝してたんだよ。黄金の鎧を着た人が助けてくれた、村の危機を救ってくれたって、みんな感謝してたんだよ……」


ハルさんはオレに優しく話してくれる。


「ボクはそれを聞いてすごく誇らしかったよ!…たとえ、トビくんがそんなことないって言うだろうけど、それでも感謝を伝えたい人はたくさんいるんだよ!今もみんなトビくんが助けてくれるのを待っているんだよ!

…ここで行かなくて、後悔はしない?」


ハルさんはとても嬉しそうに話していた。

その姿は自分の子どもを自慢する母親みたいだった。


確かにここで行かなかったら、オレは後悔をしないのか……?


いや、するかもしれない。そうなったときに

オレはそんな思いを背負っていけるのか…?


「それでも、トビくんが行かないって言うならボクは構わないよ。トビくんが決めたことに何も言うことはないから。……ね!」


オレはハルさんにここまで言わせて本当に行かなくていいのか…?


オレの答えはもう出てるんじゃないのか…?




—ローウェン村にジャイアントコング出現。


突如、村に現れたジャイアントコング。


ジャイアントコングは体長10メートルを超え、白い毛皮を覆い、ゴリラとヒヒを足したような顔だった。


腕力はもちろん、動きの素早さ、跳躍ともに

並外れた身体能力の上、身体がデカイとくる。


村の人たちは逃げ惑い、怯えて震える。

数名の騎士団が応戦するも、返り討ちにあい、重傷を負う。


「下がれ!退却だ!」


その騎士の中で果敢にも立ち向かう一人の女騎士、マリアだった。


「重傷を負った者は一旦下がれ!魔法を使える者は詠唱を唱えろ!」


マリアの指示で数人の騎士が魔法を詠唱するが、奴はそんなのを待ってはくれない。


吠えながらゴリラ特有の動き、ドラミングをした後、マリアを目掛けて突進してくる。


「くそっ!ファイヤーボール!」


マリアは炎の魔法で突進してくるのを阻止しようとしたが、奴の体は鋼なのか、まったく効いてる気配がない。

むしろスピードをさらに上げて太い腕を振り下ろす。


「退けぇ!よけろ!」


マリアの指示で数人の騎士が慌てて避ける。

マリアはジャイアントコングの一撃を受け止めようとすると


「ガード!!」


マリアの前に防御魔法が現れ、ジャイアントコングを跳ね返す。


「マリア!大丈夫か!」


「アルエ、助かった……」


マリアのもとにやってきたのはトビが失恋する原因になったクールなイケメン美男子だった。


どうやら騎士の格好をしているようだ。


「ダメだ、まったく歯が立たない!」


「……そうみたいだな」


マリアとアルエはお互いに支え合いながらジャイアントコングを睨みつける。


奴は調子に乗ってドラミングをしている。


「マリアが言ってた救世主は来ないみたいだな……」


「……そうだな、あっちも忙しいのだろう」


マリアは弱々しい笑みを浮かべる。


おそらく助けたのは偶然だったのだろう。

期待しすぎたか……?


「黄金の鎧……、また会えたら礼をしたかったのにな……」


マリアはそう呟いたあと、覚悟を決めたのだろう。


もはやそれは後悔のない目をしていた。


私は騎士だ。この職に就いてから命を落とす覚悟などできてたはずなのにやはりいざその時が来ると怖くなってしまう。


ジャイアントコングは目の前で雄叫びを上げ始めた。どうやら私たちを消し去るつもりだろうな。


私は意を決して剣を握り、ジャイアントコングを真っ直ぐ見据える。


「……やるのか、マリア」


「ああ、私は騎士だ。何としても村の人たちを守る義務がある」


「……相変わらず、頑固だな」


アルエも同じく剣を構える。

私とアリエは後ろにいる村人たちを守るために立ち向かう。


「たとえ、黄金の鎧が来なくとも我々で倒す!」


「あ、ママ、あれ見て!」


私とアルエが踏み出そうとすると、小さな女の子が声を上げた。


女の子を見ると、空を見上げている。


私たちもつられて空を見ると、何かが空からこちらに近づいてくる。


ゴォォォォォォォという音とともにその者は私たちの前に降り立った。


降り立った瞬間に砂埃と風が舞い、目を瞑る。

ゆっくり目を開けると、黄金の鎧を纏った救世主が立っていた。


「黄金の鎧……」


私は無意識にそう呟いていた。


どこかホッとしていた、心待ちにしていた存在。

アルエも初めてその姿を目にしている。

口をあんぐりと開けて驚いているようだ。


私たちが固まっていると、彼は振り向き私たちを見る。


「オレはゴールドアーマーだ。助けに来た、

こいつの相手はオレが引き受ける。

あんたたちは村の人たちを頼む」


そう言ってからジャイアントコングのほうに向き直る。


「…ゴールド、…アーマー」


私はその名前とその姿を目に焼き付ける。




——オレは空からジャイアントコングと二人の騎士の間に降り立った。


「オレはゴールドアーマーだ。助けに来た、

こいつの相手はオレが引き受ける」


……ヤべぇ、なんかカッコイイこと言っちゃったよ、ヤベェ、引かれてねぇかな。


なんかすげぇタイミングで降りてみたら、ナイスタイミングだったわぁ、そしてさらっとカッコイイこと言っている。


……うわぁ、すげぇ恥ずいぞ、これは。


「……ゴールド、…アーマー」


…うわぁ、なんか変な名前って思われてねぇかなぁ、嫌だな〜…、別にオレがつけた名前だから誰が何と言おうと変えはしないが、でもなぁ……。


後ろをチラッと向くとオレは息を呑んだ。


…うっそ、マリアさん!?…と、クールなイケメン野郎か……。

…もしかして、ハルさんはコレを知ってオレに急いで行かせたのか…?

…いやいや、まさかな。


二人はお互いに支え合っていた。


オレの入る隙はない、か。そりゃそっか。

まあ、お似合いのカップルだし、いいかな。


オレはどこか吹っ切れたような気がした。


そしてオレは目の前にいるジャイアントコングを見上げる。


…コイツがジャイアントコングか、なかなか

デカイし、強そうだな…。


だがオレには改良したアーマーがある。

目にものを見せてやる。


オレは人生で初めて武者震いというものを感じていた。


「さあ、行くぞ!」


オレはジャイアントコングに近づいて行き、

殴る態勢に構えると向こうも同じ態勢になり、同時にパンチを繰り出す。


お互いの拳がぶつかり合う。


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