第16話 二度目の失恋

——エスカルテ村の感謝祭——


ハルさんと女神はその感謝祭に出るために

化粧をしたり、ドレスを着飾ったりと大忙しだった。


だがオレはそんな二人を横目で見ながらふと思う。

それはオレがいた日本での祭り。


祭りと言えば仲の良い友達と出かけたり、好きなあの子と浴衣を着てデートしたりというイメージだった。


だがオレにとっては憂鬱のような祭りだ。


その理由は明確だ。

オレは一緒に行く友達がいなければ、彼女もいない。

よくクラスの女子たちが祭りが近づくにつれテンションが上がり、ウキウキと話している姿を見る。

それをオレは軽蔑の目で見る。


いや、わかってるんだ。彼女ができないのは

オレ自身が悪いということをだが当時のオレはそれを周りのせいにしてた。

いつからだっけなぁ、女子に優しくするのをやめたのは………。


そんなことを考えていると女神がオレの前に仁王立ちで立った。


「どうした?」


「君はどうするの?行くの?行かないの?」


オレは考える、ハルさんが行くならオレも行こうと思っているが、どうもその気分になれずにいる。

これは行っても迷惑かけるだけだからやめておこう。


「いや、悪いがオレは残るよ。まだやらなければならないこともあるしな」


「そう、それは残念ね。それじゃ行こうか、ハル!」


「……う、うん」


そう言って女神はハルさんを連れて出て行った。ハルさんは少し寂しそうな顔をしていた。


…ハルさんには申し訳ないことをしたなぁ…。やっぱオレも行くべきだったか?


いや、だがオレはローウェン村の魔物調査があるしな、仕方ない。





—ローウェン村—


オレは上空から村を見下ろしていた。


やはり空からの村は小さく見えるから少し優越感に浸れる。

なんとも卑屈な考えだな……。


今は昼近く、村の住民は普通に見えるが何かおかしい、なんでだろう。


オレは密かにローウェン村に違和感を覚えた。


何がかはわからないが、何かエスカルテ村とは違う何かを感じとってはいた。


「何だろうか、この違和感は?」


オレはこの違和感を払拭できずにいた。


「仕方ない、少し近づいてみるか……」


オレは上空から少しだけ下がり村の家や建物をズームインしながら見てみる。


「……ん?なんだろう?住民は普通だな、だが何か住民がおかしい……」


魔物調査という項目で来てはいるが魔物以前に村の様子がおかしいことはなんとも思わないのか?


「ああ、少し休もう……」


オレは考えをまとめるため、村から離れた山へと降りる。


森の中でアーマーの顔の部分を脱いでから

一人じっくりと考え込む。


「さて、あの村は何か違うことはわかる、だが住民の生活に異常はない、魔物も別に動きはないのに、なんで魔物調査の依頼が出たんだ……?」


オレはゆっくりと目を閉じる。

頭の中で脳をフル回転させる。


すると、誰かの足音が聞こえてくる。


オレは瞬時に目を開けて、アーマー装着する。


「……敵感知起動」


敵感知で周りの生物の体温、形を捉える。


後方数十メートルの距離だった。


「……ズームイン」


その場から敵の姿を見ると、オレは息を呑んだ。


「……マリアさん」


そう呟いていた。

だが、それよりも驚きなものを目にした。

マリアさんはいつもの騎士の格好をしている。そしてそのマリアさんの隣りをマリアさんと身長が同じくらいの清潔でクールで、まさに美男子という男が一緒に歩いていた。


マリアさんはその男と話すとき、あの凛々しい感じではなく、恋する乙女のような表情で話していた。


時に嬉しそうに笑い、恥ずかしそうに下を俯き、照れ臭そうに唇を尖らして、オレはなぜか心が傷んだ。

なんでオレ、がっかりしてんだ?


いや、そうだ。マリアさんはゴールドアーマーに恋してたわけでもない、かと言ってオレに好意など抱いているわけがない。


そんなのわかってるが、なんでこんなに虚しくなってんだよ。


二人は立ち止まって話をしてたのでオレは消音機能を使って、その場から森の陰に隠れるように浮遊しながら立ち去った。


山から出てきたと同時にオレは一気に全速力で上昇して駆け抜ける。


胸のざわめきをかき消すかのように、この気持ちを消し去るように。


ただひたすら無心で上昇した。

なぜか涙が流れた、なんで流れてくるのかわからない、いや、わかってたけど考えたくなかった。

マリアさんはキレイな女性だ。

そりゃあんな格好いい男がいるに決まってるだろ。


当たり前だろ、オレはそれを日本で散々経験してきただろう。

オレは結局自分から勝手に片想いして、勝手にフラれるんだよ。


そういう運命を辿ってきただろう。いい加減に理解しろよ。


オレは雲の上で止まり、一人静かに心の傷を癒やしていた。







——地下、オレ帝国にて—


オレはその足でギルドに行って、アイシャさんにローウェン村の魔物調査を断ってきた。


アイシャさんは残念そうにしていたが理由は聞いてこなかった。オレの表情を見て察してくれたのだろうか。


オレはどこか喪失感に苛まれていた。

作業など何もせず、ただ椅子に座り一点を見つめてるだけだった。


幸い、女神やハルさんは夜まで帰ってこない。

一人になるには絶好の機会だ。

頭にはあの二人の笑顔が写し出される。


「……わかってた、わかってたのになぁ」


オレはしばらくハルさんたちが帰ってくるまでその態勢でいた。








——翌日、オレは昼近くまで寝ていた。


起きたとしてもほぼ無気力に近く、作業場にいても、ただ座っているだけだった。


「……トビくん、かなり落ち込んでますね」


ハルは地下の入り口の扉の前でトビの様子を見ている。


「これはそっとしておいたほうが良さそうね……」


あの女神もあまり関わりなくない様子だ。


「そうですね……」


ハルはトビを心配しながらも扉をそっと閉める。


オレはそれを知らず、廃人のようにただ一点を見つめてぼうっとしてるだけだった。


そんなことが数日続いたある日、オレは少し気持ちの整理がついていつものように地下の作業場でアーマーの整備をしていた。


すると、ハルさんが突然勢いよく扉を開けて中に入ってくる。


「トビくん!大変だよ!」


ハルさんは血相を変えて慌てた様子で入って来た。

走ってきたのかかなり息が上がっており、少し落ち着いてから話し出した。


「どうしたんですか、そんな急いで?」


「トビくんが、魔物調査で行ってた村が今大変なことになってて……」


「……大変なこと?」


オレが途中から依頼を投げ出した村が一体どうしたというのだろうか。


「うん、いま、ジャイアントコングって言う魔物に村が襲われてるみたいで……」


「そう、なんですか……」


オレはそれを聞いてもなぜか行く気がしなかった。


「……行かないの?」


ハルさんはオレを真っ直ぐな眼差しで聞いてくるがオレは頷くこともせず、ただ無言でいた。


「村で何かあったの……?」


オレが行かないのは村で何か嫌なことがあったからということをおそらく思ってるのだろう、ハルさんは心配してくれている。


だけどオレは何も言わずにただ作業を続ける。そんなオレに呆れたのか、ハルさんはため息をついていた。


「トビくん!」


そう呼ばれて振り返るとハルさんはすぐ近くに立っていた。

ハルさんは怒っているようだった。まあ、そうなるだろう。


「なんでしょうか?」


「トビくん、何があったかわからないけど、

村が今魔物に襲われてるの、わかる?」


「それは、わかってますよ。けどなんでオレが行かなきゃならないんですか?」


オレはどこかぶっきらぼうに答えた。

精一杯強がっていた。


いや、そうでないと心が乱れるかもしれなかったから。


「トビくんだからこそ行かなきゃならないんだよ!」


すげぇめちゃくちゃな理論だな。


「それとも、もう人助けが嫌になった?」


そう言ってハルさんは寂しそうな顔をしていた。


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