第15話 トビ、見惚れる

——ローウェン村の森にて——


偶然再会したマリアさん。

マリアさんは王国騎士団団長だ。

そのマリアさんが騎士として仕える王国の王から指名手配されてるという情報を受けオレは夜の探索に出ることにした。


しかしローウェン村の森でマリアさんの裸を見たオレは心臓が口から出そうなほど驚いたが、それよりも驚いたのが指名手配は嘘ということだった。

マリアさん曰く、黄金の鎧にお礼を言いたくて探してたそうだ。


…いや、絶対に見つからないと思うし、絶対に姿を見せないと思うよ。だって指名手配されてるから。


そしてさらに驚きだったのが、あの凛々しく気高い女騎士として印象を抱いてたオレはマリアさんのもう一つの姿、それは正しく聖女とも呼べる美しさだ。


オレは見惚れていた。


…めっちゃ美人!

いや、美人ということは知っていたが、かなり衝撃だな、この前会ったときはこんなにドキドキするほどじゃなかったはずだ。


いや待て、オレにはハルさんという心に決めた人が……、てかハルさんは男だ。



「……どうかしたか?」


マリアさんがオレを不思議そうに見つめてくる。


月の光で余計に綺麗に見えてしまう。


よし、まずは平常心だ。深呼吸しよう。


オレは一回心を落ち着かせてからマリアさんを見る。


やっぱり……………。


「綺麗だ……」


「……ひぇっ!?」


マリアさんはふいを突かれたように驚き、顔を真っ赤にしていた。


「な、…なにを、…馬鹿な、…ことを……!」


明らかに動揺していた。それはオレも同じだ。まさか心の声がそのまま漏れていたとは

自分でも驚きだった。


……ああ、アーマー着ててよかったぁ。

でなきゃ、危うくこの湖に飛び込むところだった。


マリアさんは少しオレを睨んでいるように見えた。


…めっちゃ気まずいなぁ、もう帰ろうかな。

…なんも話すことないし。


そう思ってるとマリアさんが照れ臭そうにしながら話しかけてきた。


「私は、綺麗、……なのか?」


「え?ええ、そりゃもちろん……」


……ヤバイ!あまり女性と話したことがないから、めっちゃ緊張する!


女性とは縁がないオレが何を綺麗だとか抜かしたんだ!


これ以上ここにはいられない、さっさと帰ろう。


「では、これにて失礼!」


オレはそそくさと退散することにした。


「あ、ちょっと……」


マリアさんは何か言いたげな表情をしていたがオレは気にもとめずに飛びたった。


…ふぅ、心臓に悪い。


オレは飛んでる間も気持ちが悶々としていた。



—翌日、オレは地下でいつものように作業していた。


作業はしていたがあまり捗らないような気がした、それはそのはず昨日の出来事を忘れられずにいた。


…マリアさん、綺麗だったなぁ。


オレはトンカチを持ったまま、昨日のマリアさんの姿を思い出していた。


昨日はあのまま帰ったからな、なんか恥ずかしかったし……。


まあ、このまま会わないで済んだほうがいいかもしれないな、会ったらなんか変なことになりそうだし。


向こうはオレのことは気づいてないっぽいけど、オレは覚えてるからな。

少し気まずくなるのは目に見えてる。


「なーに、ぼーっとしてるの?」


「……うぉ!?……っておまえかよ」


「なっ!?おまえってなによ!女神に向かって!」


女神はそれはそれはお怒りだった。だか、急に話しかけてくる、コイツが悪い、こっちは心臓が飛びはねるくらいびっくりしたんだからな、なのでオレはさらっと流すことにした。



「ああ、わかったわかった。で、なんの用だよ」


「別に用はないけど……」


「ないなら、なんで話しかけてくるんだ?」


「君がなんか心ここにあらず、っていう顔をしてたから!」


そう言って女神はウインクしてくる。

オレはそれを無表情で返す。


「なにかあったの?」


「なんもねぇよ……」


「ふーん、まあ別にいいけど…」


興味ないという感じで言う女神にオレは毎度ため息がでる。

一体コイツはここに何しに来てんだろうと…。


「それより、ねぇ見て見て!」


「……何が?」


オレは気だるそうな顔をして振り向くと、ハルさんがいるけど、オレはその格好を見て固まってしまった。


白く胸元まで開いたドレスに宝石のようなラメがキラキラと輝き、腰のラインを強調した作りに太ももが見えそうで見えない足元で

極めつけに顔は化粧しているようで清潔で整った顔立ちをさらに際立たせるように施している。

その格好はまさに女神と呼べるレベルのものだった。


「……ハルさん、その格好は?」


オレは驚きすぎてしどろもどろになってしまい、うまく言葉が喋れない。


「うぅぅ……、ボク、男なのに」


ハルさんは恥ずかしさともどかしさで耳まで真っ赤にしていた。


「ハルさん、キレイですよ……」


オレは無意識にその言葉が口から出ていた。


「……ほ、ほんとうに?」


ハルさんは上目遣いで涙目で聞いてくる。

オレはほぼ放心状態に近かった。


これで本当に男かと疑ってしまう。


「はい、とてもキレイです……」


「……うん、ありがと」


オレがそう言うとハルさんは頬を染めてニッコリと微笑む。

その姿にノックダウン、オレはそのまま後ろに

倒れた。


ドサッ!!


「あ!トビくん!大丈夫、しっかりして!」


ハルさんの声が遠くなっていく。



—オレは目を覚ます。


「あ!気がついた?」


目を開けると、ベッドの上だった。

横を見るとハルさんがベッドの横で座っていた。


「ハルさん、おはようございます」


「何言ってるの、もう昼だよ……」


ああ、そうか。オレはずっと気を失っていたのか。


「ずっと、いてくれたんですか?」


「うん、もう心配したんだよ……」


オレが聞くと、ハルさんは笑顔で頷く。


「そうですか、ご迷惑お掛けしました」



オレはなんとも恥ずかしい失態をおかしてしまったのか。

そこでハルさんを見るとまだあのドレスを着ている。


「そう言えば、ハルさんその格好は何ですか?」


「ああ、これはね、村の感謝祭に出るためなんだよ!」


「……感謝祭?」


「うん、一年に二回行われるんだよ!」


オレは全くチンプンカンなのでとりあえずお祭りという認識にしとこうと思った。


「それでその感謝祭に出るためにその格好を?」


「……うん、エミリアさんに着せられて」


ハルさんはモジモジして顔を赤らめて言う。


…そんなに恥ずかしいなら断ればいいのに。



オレは心底ハルさんの推しに弱いところが心配になってくる。

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