9

 休憩室に入ると、死唄がイマジネクトを操作していた。

 聴ノが入ってきたことに気づくと、タブをすべて消して、持つよ、といってトレイを受け取った。


 ほらやさしい。


「ありがと、あ、そのポテチ潰さないでね」


 トレイに載ったスナック菓子の、袋の端とトレイを挟むようにして受け取った手を見て、一応注意する。


「うん、でもなんで紅茶にポテチ?」


 やっぱりそうなるか、と聴ノは口の端を曲げる。


「ふっふっふ~ん、ワトソン君?  アップルティーにポテチ、それも、バリ揚げポテイトうすしお味は、合うんだよ」


 得意げに、その相性を語る。しかし、死唄の反応は怪訝そうに、パッケージを眺めるだけだった。


「本当に? とでも言いたげだなワトソン君?」

「嘘だとは思ってないけど、本当に?」


 疑ってるじゃん。なんとなく傷つきながらも立ち直る。大丈夫、みんな最初はこんな反応さ。

 まことっちだって、「そんなわけあるか、」とか言いながら、「合うな、」ってバリボリ食べてたじゃないか。


「紅茶の甘みと、ポテチの塩味がいい感じにマッチするんだよ!!」

「‥‥‥」


 無反応は流石にボクでも傷つくよぉ。

 とりあえず、開けよう、食べればわかるのさ。死唄の隣に腰を降ろして、紅茶を一口啜る。身体に甘さが染み渡り、ほうっと、自然に息をついた。隣で死唄も一口啜る、猫舌なのか、「っち!」とかやっているから一々可愛い。


「開けるよぉ~」


 一声掛けて、ポテチを手に取った。ここで無理に開けようとすると、ボフっと袋が弾けて中身が飛び散るが、そんな失態は犯さない。

 パーティー開けと呼ばれる、パッケージの裏側に付いている、ビニールの継ぎ目から袋を裂けば、そうとうの不器用が開けない限りは、下手な開き方はしない。


 何事もなく開いた袋からは、いかにもカロリーが高そうな香りがした。

 一つつまんで口に放り込む。バリっと、心地いい音と共に、ジャガイモ感が広がる。次に来るは、その塩味。塩‼という味が、口いっぱいに広がる。噛めば噛むほど味が広がり、これぞポテチ! と存在を知らしめる。その塩味の余韻に浸りつつ、カップを持ち上げる。隣で死唄がまじまじと聴ノを見ている、紅茶を啜る。林檎の香りと、紅茶の甘さが口内を吹き抜けて、さっきまでの塩味を搔っ攫っていく。


 でも、ジャガイモ感すべてを拭いとるわけではない。もう一度、チップに手を伸ばしたくなる、それぐらいのちょうどよさ。


「うん、合う!」


 やっぱりこの組み合わせが一番だ。紅茶も、これ以外はなんか違う。


「本当に?」


 胡散臭そうに死唄が聴ノの顔を覗き込む。


「いいから食べてみてって、ほら」


 チップを持ち上げて、死唄の口元に持っていく。小ぶりな唇が、食べるかどうか決めあぐねるように微妙に動く。


 ああもう、えい!


 いつまでたってもチップを見つめたままなので、聴ノは思い切って死唄の口に突っ込んだ。


「!?  むぐっ‥‥‥」


 仕方なそうにバリバリと噛み始める、喉元がこくんと動いたところで、


「はい、お茶!」


 すかさずカップを手渡す。

 そんなわけ‥‥‥みたいな表情で紅茶を啜った。


「‥‥‥」

「どう?」

「‥‥‥」


 え、?  無視?

 黙っているので、そんなにまずかったのかと、自分の感性を疑い始めそうになった時だった。

 死唄が、チップをつまんで口に運んだ。味わい、飲み込む。カップを手に取り啜る。


「合う‥‥‥」

「でしょ!!」


 危うく自分と、ついでに誠トの感性を疑うところだった。


「私もこの組み合わせ、好きかも。おいしい」

「っ!!」


 思わず笑顔がこぼれる。自分の好きなものを美味しいといってもらえた喜びと、もう一つ。

 死唄が、顔をあげて、微笑んだのだ。

 一瞬、天使がいたかと思った。


「ボク、死唄が笑ってる顔が一番好きだな」

「え、?」

「すっごく可愛い! 」

「‥‥‥ありがと」


 照れたように顔を背けて言う。


「へへっ」


 今日はすごくいい日だ。やっと笑いあえる友達ができた。

 そのあと、しばらく他愛のない話をした。そのころにはカップに並々と入っていた紅茶も、実は増量パックだったポテチもなくなっていた。

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