8
死唄が泣き出した時、聴ノはまた、自分は空気の読めないことを言ったしまったのかと、焦った。
しかし、どうやら、自分の言葉は死唄を責めた訳ではなかったらしい。
そのことに安心して、取り敢えず胸をなで下ろした。
「喉乾いたでしょ?」
聴ノが問うと、死唄が、
「え、いや、まあ」
と歯切れ悪く答えるので、もどかしくて、つい
「どっちかにする!! ボクだって気ぐらい使うんだから」
と余計なことを言ってしまった。
けれど死唄は、気を悪くした様子もなく。
「ごめん、うん、乾いたかも」
と、結局どっちつかずな答えを出す。
「ちょっと待ってて、お茶入れてくるから」
「うん、」
素直なんだかそうじゃないんだか。でもそういうところが可愛い。
死唄を振ったとかいう男の考えることがわからない。こんなに素直で(?)可愛くてかっこいい女の子、他にそういないはずだ。まったく惜しいことをするよ、ボクがもらっちゃいたいぐらいだ。
休憩室からでて、指令室をまたぎ、反対側にあるドア、給湯室へと向かう。
ドアを開けて中に入ると、一人暮らしの部屋よりも少し豪華なキッチンが広がる。
この地下の指令室は、出入りが面倒くさく、一度入ったら長時間滞在になることを考慮してか、給湯室がほとんど台所のような作りをしている。
当然冷蔵庫類も完備され、ここで料理をすることも可能だ。
まあ食べるためのテーブルはなく、唯一使えそうな円卓は、書類の山で使いものにならないが。イマジネクトが普及した今、紙の書類なんて邪魔なだけだが、誠トが紙を好むのだから仕方ない。
備え付けの棚から、ティーカップを二つ取り出す。次に、これも棚に入っている缶から、ティーバッグをつまんでカップへ放り込む。
キッチンの脇に置いてあるポッドから湯をカップに注ぐと、林檎の仄かな甘い香りが漂ってきた。
「♪」
ご機嫌で二個目のカップにも湯を注ぐ。
バッグから茶が沁みる数秒の間に棚に置いてあるバスケットから青いパッケージのスナック菓子を取り出す。準備ができると、全部をトレイに載せて、給湯室を出た。
指令室には誠トが訓練施設のシステムを落として帰ってきていた。
「聴ノか、一矢当くんはどうだ?」
「すっごく可愛いよ」
誠トが顔をしかめて、
「そうじゃなくてだな、」
「これからティータイムなので失礼!!」
説教が始まる前に、聴ノは紅茶をこぼさないよう気を付け、ダッシュで休憩室へと向かう。
この時だけは、「なんで休憩室と、給湯室は繋がってないんだよぉ」と思った。
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