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映像は、決勝戦の10人対戦の様子だった。
既に死唄が、5人のプレイヤーをキルしたあとだ。
残りの4人のプレイ映像が順繰りに映し出される。やがて、一人のプレイヤーに絞り、そのプレイヤーの俯瞰視点になった。ここからだ。死唄がの顔がアップで表示されるのは。
プレイヤーが、潜伏しているのは廃工場地帯に隣接するエリア、大きなショッピングモールの中だ。こういう場所では広すぎて他のプレイヤーにエンカウントすることもほとんどないため、イモり勝ちをしたい人間がよく使用するフィールドだ。障害物も多く、万が一エンカウントしても、十分に対処できる。
当時の死唄は、その穴を突いた。高速でモール内を駆け回り、相手が隠れる場所をさがした。そして、最上階のファッションブランドのコーナーで狙撃を喰らった。弾丸は肩を掠め、HPを2割近く削った。相手はスナイパーライフルだった。だが死唄は、それ以上のことを知っていた。相手の武器は、高威力が故に、サイズが大きく取り回しが悪い。それに加えてかなりの重量なため、サブウェポンとしてハンドガンすら持てない。
つまり、接近すれば、勝てる。
一言でいうと、かなりゴリ押しに近い戦法ではあったが、死唄は、今までも同じような戦い方をしてきた。エイムがよくても、自分が当たれば元も子もないからだ。
狙撃され、その方向を見極めた死唄は、一度止めた足を再度動かす。二撃目が頬すれすれを貫く。――――完全にヘッドショットを狙っていた。
その二撃目で、大まかな位置を把握する。相手は、衣服がハンガーで掛けられたコーナーの、その服の中から、銃身だけを出して狙っているようだった。子供の頃、服の中で隠れている気になって、親に叱られる経験をした人は少なくないはずだ。
三撃目が足元に着弾、しかし死唄はひるまない。
四撃目、死唄が接近し、当てやすくなったその距離で、正確に、肩口に着弾。HPが残り3割に減る。
ここにたどり着くまでに、弾薬を消費していたのか、リロードをする音がモールに響く。
思わず死唄は笑う。
勝った。
狙撃が止んだ、その数秒、死唄は走りながら、服に隠れ見えないはずの敵に向けて照準。引き金を引いた。
一発、高らかに銃声が響く。
そこで映像が、悪意あるアップに切り替わり、そこに醜悪な笑みを写す。
そこで動画は終わった。どうやら、トッププレイヤーのダイジェスト動画だったようだ。
だが死唄は、そんなことよりも聴ノの反応が気がかりだった。
恐る恐る、ウィンドウから顔を上げて、聴ノの顔を見る。
「‥‥‥じゃん‥‥‥‥‥‥」
ぼそりと、聴ノが発した。
やっぱり、ダメだった。少しでも聴ノの言葉を信じた自分がおかしかった。誰でも、ああいうはずなのに。誠トも、映像を見たと言っていた。きっと内心では、なんだこいつは。とでも思っているのだろう。
ああ、終わった。そう思って、右手で顔を覆った。掌が濡れた。泣いているのか?
なんで、こんなくだらないことで泣いて――――
「かっこいいじゃん!!」
「――――――は?」
「かっこいいって! イケメンじゃん!」
「‥‥‥何が?」
「しおんだよ!! いいなぁボクもイケメン系のキャラが良かったよぉ。クール系女子って憧れるよね~」
誰の話をしているんだ? 今の時点で登場していない人間は、寝ていた女性を除いて、確か 霧ヶ咲 涼薇だったか。その人のことを言っているのか? 流れた涙を拭うことも忘れ死唄は考える。
「おーい聞いてる? あれ、あんまり言われても嬉しくないタイプ?」
「いや、そうじゃなくて‥‥‥この、私の顔は――――」
「――――醜悪だ、とでも?」
死唄の考えを読んだかのように、死唄の言葉を継いだ聴ノ。その顔に、薄っすらと苛立ちを浮かべて、
「そんなこと、もう誰にも言わせない。ボクが補償するよ。死唄は可愛い、かっこいいよ。ボクは戦ってるときも、普通のときも、どっちの死唄も好きだよ」
「――――――っ!!」
初めてだった、外見を褒められたことなんて。
女らしくないだとか、けなされることはあっても。大会のときの顔だって、当時の中学のクラスメイトにすら、怖い、気持ち悪いと、言われたのに。
頬に雫が伝った。
悲しいからではなかった。
「え!? ボク何か変なこと言った? ごめん、そんなつもりじゃっ!」
とうとう、制御が効かなくなり、雫が滝になる。泣き顔を見られたくなくて、服の袖で顔を隠す。
「ちょっ、しおん!?」
聴ノが心配そうに声をあげる。でも、死唄は答えられない。
まさか、『彼』のように離れるどころか、近寄ってくる人間がいるなんて夢にも思わなかった。
まさか、怪物などと言われた人間の、肩を抱く人間がいるなんて。
ひとしきり泣いて、やっと涙腺の制御がもどった。
死唄は、やっとの思いで、掠れた喉を震わせて、口を開く。
「‥‥‥‥‥‥ありがとう」
それを聞いた聴ノは、満面の笑みで
「良かった」
と、胸をなで下ろした。
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