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撃てばいいのと、本気で戦うのじゃ、わけが違う。
事務的に指を動かせばいいのと、勝つために体を動かすのは、どうしても違う。
少なくとも、ここにいる二人以外の警視庁の人々は、あの頃の死唄を知らない。だから、安心できた。もう、これ以上、誰かに離れられたくない。
だから、嫌だ。
「‥‥‥や‥‥‥だ、」
嫌だ、彼のように、何も言わずに離れられたくない。
やっとできた、繋がりだったのに、失ってしまった。もう、同じ過ちは‥‥‥
「しおん」
ふわっと、突然聴ノが抱き着いてきた。思わず跳ね上がる。接続が解除された器具が冷たく死唄に突き刺さる。
「怖い顔してる。どうしたの? ボクに話せることなら話してよ。聴くから」
『聴ノ、戻って来なさい。一矢当くんもだ』
声が響く。けれど死唄には、スピーカーの声は聞こえなかった。
◇◇◇
どうやって来たのかわからないが、死唄は休憩室のような場所にいた。
隣には聴ノが座っている。おそらく、指令室の壁にあったいくつかの扉の内の一つ、その中なのだろう。
ふかふかの壁付きベンチはよく沈み、相当な値段だとわかる。
しかしながら死唄に、部屋の分析ができるほどの余裕はなかった。
「しおん、どうしたの?」
優しく、聴ノが語りかけてくる。けれど、死唄は答えられない。
「しおん?」
だけどわかってもいる。いずれ訪れることはわかっていたはずなのだ。こういう日が訪れることは。逃げ続けることなんてできないと、わかっていた。
「ボクは、しおんじゃないから、全部はわかんないけど、何かあったのはわかるよ。ボクこう見えても、感は当たるほうなんだよ?」
しつこく、聴ノが問う。
「‥‥‥‥‥‥」
死唄が答えられないでいると、聴ノが何かを察したように、
「大丈夫、ボクは何を聞いても変わらないよ?」
「‥‥‥っ!」
まるで死唄の心を読むように聴ノがいう。
優しく、柔らかな、まるで母親のような声音で。聴ノになら、話してもいい気がした。そう、納得してしまう説得力が、その声にはあって……
ついに、よく考えもせず、語りだした。
ぽつり、ぽつりと。
「私は‥‥‥」
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