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あの時のことを思い出すと、今でも泣きたくなる。
ゲームをしているとき、人が変わる。そんなことは、よくある話だ。
それがたまたま、死唄にも当てはまっただけ。
だから別に、彼が悪いわけではない。
死唄は、中学の頃、ゲームにハマっていた。そこで、一人の少年と出会った。
その少年は、日本ランキング一位という、称号の持ち主で、強くて、優しい人だった。ゲームを始めたばかりの死唄に、色々教えてくれたのもその人だった。
家族が誰一人いなかった死唄は、少年と、ゲーム会場で会うのが楽しみになっていた。彼といると、家に誰もいないのなんか忘れて、いくらでも笑いあえた。
この銃はリコイルがどうとか、総弾数がイマイチとか。
話していくうちに、彼も、死唄と同じ、家に誰も居ないと知った。彼の方は、親戚の家に引き取られたそうだがあまり歓迎されなかったらしい。
同じような境遇の人間は、引かれ合うものらしい。
正直、あの時の自分に訊いてもわからないと思うが。
今思えば自分は、彼に惹かれていた。好意があったのだろう。
自分は、彼に近づきたくて強くなろうとした、強く強く。
気づけば自分は、彼を超えていた。彼はすごいと、手を叩いて褒めてくれた。それがうれしくて、もっと上へ行ってやろうと思った。
だから、二回目の大会でも、優勝すれば、また褒めてもらえると。
本気でそう信じていた。
彼はその大会に出場することは無かった、親戚の家で留守番を押し付けられたらしい、彼は仕方ないと言って笑っていたが、多分本当は出たかったはずだ。
だから彼の分も倒してやろう、と意気込んで会場に立った。
死唄は、優勝した。うれしかった。だから、ウキウキしながら彼にボイスチャットのコールをした。
彼の声は、震えていた。彼は、LIVE配信を見ていたらしい。「イマジネクト」のブラウザで、サイトにログインして。そして、彼は視た、戦っていた死唄を。
「あれは誰なんだ」
一言、言った。
何を言われたのか分からなかった。脳内で言葉を反芻してもわからない。何が? と問い返した。
誰なんだあれは、と彼は言う。こんなの君じゃないと。
だから何がと、訊く。訊くが、答えてくれない。
彼は、LIVE配信の画面を、スクリーンショットしたから見てみろ。と言って、画像データを送ってきた。それからもう一度、誰なんだ、と、吐き捨てるように呟いて、チャットを切った。
死唄は、わけがわからなくて、急いでウィンドウを操作し、画像を開く。なんなんだ、画像次第では、すぐにかけ直して問い詰めてやる。画像がポップアップする。
画面いっぱいに表示された画像は、戦闘中の少女の画像だった。
否、死唄だった。
わからなかったことが、やっとわかった。安堵と恐怖が、死唄の心臓にまとわりつく。
表示された死唄の表情は、恐ろしかった。敵を撃った、ちょうどその瞬間の画像だった。その顔は、不気味に笑んでいて、何かに取り付かれているような、そんな、
最悪の表情だった。
人を撃ちながら笑う。いくらゲームといえど、これは違う。そういう笑みじゃない。自分のことなのに、他人事のように推測し、確信する。
これは、醜悪だ。と
あの日のことは、よく見る夢の内の一つになっている。だから、月に最低一回は、朝から泣いている。
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