三弾 撃鉄

1

 手の中にある銃の感触を確かめて、少女はほくそ笑んだ。

 あと5人、あと5人倒せば勝てる。


 銃の残りの弾数を、目の前に投影されるウィンドウを視て確認する。

 残り5発。ホログラムでできている銃は、リロードという行為が必要ない。ただし、リロードをしているという体の、エンプティクールタイムは存在する。その間に撃たれれば、誰でもHPがゼロになるだろう。


 少し大きめの、回転式拳銃。名前を、

 コルトパイソンという。

 少女が扱うには少々ゴツい、それにリコイルもかなりのものだ。

 余裕だ。一人一発ずつあれば、勝てる。


 少女が潜んでいるのは、大規模なゲーム会場、その一角の廃工場の物陰だ。

 拳銃以外の装備は、軽い防弾ベスト、ステルス性を上げるボロボロのデザインの黒いマント。

 いずれもホログラムでできている。


 コツ、コツ‥‥‥


 物音だ、少女は拳銃のグリップを強く握る。誰かが工場に入ってきたのだろう。ベルトコンベアが並ぶ工場は、人がいればすぐに気づかれてしまうほどにスカスカだ。

 未使用の部品が詰まった、積み荷の山の影に隠れている少女は、聞こえる音だけを頼りに、敵がいる方向を、想像する。


 コツ、コツ‥‥‥ガチャ、カッ、ガチン。


 銃を操作する音が工場に響く。それぐらい静かな場所だから、自分の息遣いが相手に聞こえやしないか心配になる。心臓が跳ねる。


 相手はおそらくホログラムの、マガジンをリロードしたのだろう。そういう手動操作が好きなプレイヤーは、その行動を疑似再現で体感することができる。

 それこそが、このゲームの目玉でもあった。


 大規模ARタイトル[Reloading world]


 一定の区間を貸し切り、その中でホログラムで疑似再現された、銃などの武器で戦うPVPが基本のシューティングゲームだ。

「イマジネクト」で銃を再現することは5年前の事件を境に、法律的にも、物理的にもできなくなっていた。しかし、それではガンマニアが黙っていない。


 このゲームは、国に認可されている。


 そういう、いうなれば犯罪者予備軍の抑止力となるよう、ゲームとしての銃の再現を許可した。もちろん、それはゲーム用にプログラムしなおされたものだが。

 だからこそ、このゲームにはリアリティがある。


「はぁ、あと5人も居んのかよ。そのうち一人はあのディソンだしな。どうしたもんか」


 不意に声が聞こえた。どうやら相手は敵の多さにうんざりなようだ。しかしながら少女はそのほかのことに反応した‥‥‥名前だ。敵の口からこぼれた名前。

 それは、少女のプレイヤーネームだった。

 たいして気にすることもなかったか、そう少女は思い直す。


 相手は今、確実に油断している。やるなら今だ。

 少女が、物陰から飛び出した。文字通り、飛び出す。


「のぁっ⁉」


 敵が驚愕の声を漏らす、しかし流石はここまで残った強者だ。即座に銃を構え、そのアイアンサイトの先端を少女に向ける。

 だが、それでは遅かった。

 少女はすでに、空中で照準を済ませていた。その男の、脳天に。


 一発、銃声が轟く。


 至近距離での、マグナム弾は、プレイヤー一人のHPを吹き飛ばすには十分だった。

 少女が、とっ、と地面に降り立つとともに、男のホログラムが四散した。


「‥‥‥‥‥‥」


 負けた男は何も言わない。何かに怯えたように、顔をこわばらせるばかりだ。

 少女は何も言わずに、その場から立ち去る。一度銃声が上がれば、その場所に人が来る可能性は高い。いつまでもここにいるわけにも行かない。


 男を屠ったあと、少女は立て続けに4人のプレイヤーを穿ち、あっさりと優勝した。その大会を見ていた者たちは、戦慄する。前大会とうって変わった彼女に。


 プレイヤー「Disong」は、3年前の大会で、相対したすべてのプレイヤーをキルして、単独優勝した怪物だった。その後は、このゲームのもう一つの目玉、日本全国のランキングで、1位という称号を手にする。そういうプレイヤーだった。

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