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水のような滑らかさで動く、半透明のホログラム。それが再現しているのは、一人の少女が戦う映像データ。
ふわふわの銀髪をなびかせながら、足さばきだけで、敵を屠っていく。あるものは蹴り飛ばされ、あるものはど突かれ、あるものはその体捌きだけで投げ飛ばされていた。
「だからね、しおん。キミのホロガンの腕はボクたちに必要なんだ。キミの想像力は、日本一なんだよ‼」
死唄の想像力、それは、弾丸を的確に軌道を描き、的に着弾させる力。ブランクデータなしにそれができるのは、天才だ。と、聴ノが言う。
「それは、わかったけど。でも、どうやって‥‥‥」
天才だと言われるのは、あまり乗り気しなかったが、今自分が就職活動もなしに仕事につけているのは、この才能のお陰なのだから仕方ない。しかし、その先が腑に落ちなかった。
「いくらボクでも、ずっとホロバレットを撃たれ続けるのは、キツいんだよ。ソフトの
「いや、だからって私が撃つのは‥‥‥」
「大丈夫‼ ボクの視界はイマジネクトで投影共有できるから、しおんはそれを見て狙えばいいんだよ。実際に弾が出るのはボクが握る銃の方なんだから」
「でも‥‥‥」
「一矢当くん、悪いがこれは、長官命令なんだ。もっと言えば、国家命令。それぐらい重要な話なんだ」
聴ノが説明する間、あれから沈黙を貫いてきた
「君に拒否権はない。どうしてもというのなら、狙撃官という肩書きは、もう名乗れなくなるが、それが望みか?」
誠トが、静かな声で、冷酷にそう言い放った。
「‥‥‥いえ、そこまでじゃないですけど、」
「けど?」
「私、戦った事なんてないですよ? 戦闘訓練だって、一般の警察官がするようなことしか習得してませんし、エージェントなんてとても、」
急にそういう仕事をしろと言われても、困る、できないものはできない。
「何度も言うが、これは長官命令だ。だが、国家命令でもある。しかし、それは国が君を認めたということだ。君の能力をしっかりと理解した上で、君に令を下した。‥‥‥とは言え、君にとっては酷だという事も理解している。だから、私が上に変わって伝えさせてもらう」
誠トはそこで深呼吸すると、姿勢を正した。
「君に願い申し上げたい。私達と共に戦って貰いたい、頼む」
そして、音もなく腰を曲げる、まるでそれが世界で一番正しいと疑わない、これが正解だと信じるような丁寧さで、角度で、背中で、頼み込む。
死唄は思う、これが背中で語るということなんだろうなと。聴ノの可愛らしさとはまた別な、そういう域の説得力が、死唄の心を揺らす。
「顔を上げて下さい、誠トさん。いえ、司令官」
恐る恐るというように顔を上げる誠ト、その瞳には、驚きが浮かんでいた。
「いいのか? 私という立場上、あまり言えんが、断ってもいいんだ。君の人生を強制はできない」
誠トが、少し慌てたように言う。多分、死唄の年齢を顧みて言っているのだろう。
それなら、横でうれしそうに飛び跳ねている聴ノはどうなんだと問いたくなるが、そこはあえて指摘しない。
「はい、いいんです。それに、多分警視庁を抜けたら、行くところもありませんし」
「そう‥‥‥そうか‥‥‥わかった。了解した。今から君は、正式にウチの一員だ」
「やったねしおん‼ 今日からよろしく‼」
「うん、よろし――――わぁ⁉」
言いかけたところで、聴ノが飛びついてきた。
後ろ腰に腕が回され、抱擁される。聴ノの体温がじんわりと伝わって、温かい。
「ボクね、ずっと相棒が欲しかったんだ‼ 一人じゃちょっと寂しくって」
聴ノが死唄に頬ずりしてくる。その姿がなんとも愛くるしくて、やっぱりなんとなく、聴ノの腰に腕を回した。
んっん! と誠トが咳払いをした。
「いいムードの所悪いんだが、一矢当くん、君の戦闘データを取らせてもえらえないか? 聴ノのイマジネクトに送らなければならないんだ」
「っ⁉」
思わず死唄は、聴ノからパッと腕を放した。戦闘データを取るだって?
「‥‥‥あの、それは、どういう?」
「この指令室は地下にある、落下してきた君ならわかると思うが。この部屋の奥には、訓練施設があるんだ。だからそこで聴ノと戦ってもらう。もちろん手加減はさせるが」
「さっきの映像みたいに、ボクは腕を使わないから、しおんはなんでも使っていいよ? あ、これダウンロードしといてね、ホロガンを使うなら、訓練用の制御ソフトが必要だろうから」
そういって、聴ノが、「イマジネクト」を操作して、死唄にデータファイルを飛ばした。受け取ったデータをダウンロードする。どうやら脳の想像力を制限するソフトらしい、なんとなく危険な香りがするが、死唄はそれどころではなかった。
心臓の鼓動がバクバクと速まる。まずい、それだけは本当にまずい。なぜならそれは、それは、死唄の戦闘ができないという
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