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「それがね、ちょっと違うんだよ」
「違う?」
「うん、イマジネクトは、ユーザーの思考する、音、形、感触。五感の中の三つを再現する。それは、誰もが知っているけれど、その神髄は知らない。ボクでも、最近知ったことなんだ」
そこで聴ノは、自身の眼にはめているであろう「イマジネクト」を操作して、人気アニメのキャラクターモデルを顕現させる。
「イマジネクトの神髄、というか機能の詳細かな。このイマジネクトは別に、使用者の思考を完全に再現できるわけじゃない。イマジネクトが再現するホログラムは、使用者の想像力に
「想像力に依存? それって、あの想像力?」
「うん、雲がソフトクリームの形に見えるとか、そういうこと。イマジネクトは、脳の信号の受信はできるし、再現もできる。でも、その元データが完璧じゃなければ、ホログラムも完璧にならない。そういう風にできてるんだ」
「中途半端な想像は、中途半端なまま…」
「そう。でも、それは普通のことなんだ。みんな、中途半端な想像力しか持ってない。当たり前――――」
「――――じゃあなんで、ホログラムは完璧になっているのか、そう思うでしょ?」
「まあ、当然」
「イマジネクトは、常にネットに接続されている―――もちろんハプニングでオフラインになるかもだけど、そのときはイマジネクトの思考投影機能そのものが使えないからね」
「――――だから、その場で
そういうことだったのか、どうりで、完璧すぎると思っていた。
「でも
チッチッチ! と人指し指を振りながら、聴ノが言う。
「話は最後まで聞くものだよ? ワトソン君。――――まことっち、お前が言うなみたいな視線やめて、説明辞めちゃうよ」
「‥‥‥‥‥‥」
誠トが視線を外すと、満足げに聴ノがうなずく。
「その、膨大なデータの中に、あっちゃいけないモノがあったんだ。銃のブランクデータ。それだよ」
死唄は最初、言われてもピンとこなかった。別に、それぐらいあってもいいのでは? などと、のんきな考えすら過った。しかし、半秒後に理解して、戦慄した。
「まさか、」
「そう、そのまさかなんだよ」
答え合わせをするように聴ノが、死唄の疑念を肯定する。
「それがあれば、銃という凶器の使用が、完全再現できちゃうんだよ。ううん、できちゃってたかな。最初の事件が起きたときに、企業が気づいて、
「ならもう安全なんじゃ? 最近そういう事件もないし」
「にゃ、それは、なくされてるだけ。もみ消されてるんだよ。社会を混乱させないために」
「それはどういう?」
「イマジネクトのプロテクトが修正されてから3年がたったけど、そういう事件は今でも起きている。それを隠れて対処するのがボクたちAKS-Bの仕事。どう、わかった?」
どうやら説明はこれで終わりらしい。
まだまだ疑問は残るものの、ひとまず、この組織についてはなんとなくわかった。その秘匿性も理解できた。しかしながら、まだ二つ、聞いておきたいことがあった。
「二つ、訊いていい?」
「もちろん」
「私の役割、さっき言ってたけどそれって何? もう一つは、聴ノは戦闘員って言ってたけど、なんで?」
そっか、そっちは話してなかったか、ごめんごめん。と呟き、答えた。
「知ってるよ、しおんは、ホロガンの命中率が、ほとんど100%なんだってね」
唐突に問われ、戸惑う。
「そう、だけど。‥‥‥もしかして狙撃官としての役割?」
「ご名答。イマジネクトがどうやってホログラムを作り出すかは、もうわかってるでしょ? あの話からすると、99%っていう数字はすごいんだよ?」
「だって警察のホロガンは、ソフトで制限されていて。銃のモデルと、弾の発射までのブランクデータは補ってくれるけど、狙った的に当たるかどうかは、射手だよりなんだから」
薄々気づいてはいた。死唄以外が、ホロガンを扱えない理由。それは、弾が当たらないからだと。
「命中率だけは、補正するわけにはいかないからね、警察専用のブランクデータをハッキングとかで盗まれでもすれば、一大事だからね」
狙撃官が、一人しか存在しない理由。
それが今、あまりにもあっけなく明かされた。
そして聴ノは言う。
「
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