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 そこで一呼吸置いて、きくのノが語りだす。


「しおんはここが、脳魔弾殺人対策課だと思って来たわけだよね?」

「うん、まあ」

「その見解は間違ってないよ。脳魔弾殺人対策課という部署は、確かに存在している。仮初かりそめの存在として」

「仮初?」

「そう、脳魔弾殺人対策課は、ボク達AKS-Bを包み込む隠れみのってわけ。そこまではわかる?」


 数学の問題の解説、それを確認する講師のように確認が挟まれる。


「つまり、脳魔弾殺人対策課は、書類上は存在するけど、それは、聴ノ達の組織を隠すための名前ってこと?」

「そゆこと。で、AKS-B(エキスビー)っていうのはね、」

「Anti kill of Psycho Bullet(アンチ キル オブ サイコバレット)」


 発音のいい英語が、少女の小ぶりな唇から紡がれる。少しだけ意外だった。


「脳魔弾殺人対策課の英訳、といっても和製だけどね。その略称。それがボクらの名前そしき」 


 なるほど、それならば合点がいく。対脳魔弾殺人、そのままだ。


「でも、それだけなら別に隠す必要なんてないんじゃ?」

「それがあるんだよね、ボクらは。いわゆる国家機密ってやつさ」


 国家機密?


「対策課は、普通に事件を解決するだけの場所。多少デバイスの知識がある警察官が集まるだけ、まあそれは当たり前なんだけどね。だってその程度で足りる事件しか担当しないんだから。でもそれは昔の話、ボクらはエージェントなんだよ? しおん」


 いかにもな部屋にいかにもな称号、自分は今映画の中にいるのかと錯覚するような単語が続き、いよいよ死唄はわけがわからなくなる。


「エージェント?」


 問いだけになる死唄を気にも留めず、聴ノは続ける。


「ボクらは、普通の警察が対処できない事件を担当する。そういう組織だ。ボクらのことは、公安でも知らない」


 公安、謎多き組織であり、世間にとっては、物語にするには十分な、かっこうのネタ対象だ。

 その公安でも知らない組織、死唄は、足を踏み入れてはいけない聖域にいるような気がして、足元が頼りなくなってきた。

 少しでも不敬なことをしたら、地面が崩れ落ちるんじゃないかと。


「ねえしおん、イマジネクトが投影するホログラムは、どうやってできてるか知ってる?」


 不意に、話が変わり、問いが投げられた。


「‥‥‥ユーザーの思考を読み取って、それを投影して再現する‥‥‥?」

「それがね、ちょっと違うんだよ」

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