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「あ、そうだ、キミの名前を聞いてなかったや、なんていうの? 教えてよ」


 目を輝かせた少女、きくのノが、一歩近づいて手を差し出してくる。多分握手だ。


「‥‥‥聴ノ。昨日話しておいたはずだが? 彼女の名前は――――」

「あっ、言わないで~‼ せっかく忘れちゃったんだから。ボクは本人から聞きたいの‼」

「はぁ‥‥‥そうか。すまない、自己紹介をしてやってくれ。ああ、私と他のメンバーは知っているから、改めて名乗りに行く必要はない。この子に付き合ってやってくれ」


 眉間をつねり、優美な姿勢で困り果てたまことトは結局諦めて、死唄しおんに任せてきた。


「‥‥‥」

「あれ、どしたの? 元気ない? あっもしかしてお腹空いた?」


 色々ありすぎて答える気にもなれない。いや、冷静になれ。名乗れば他の情報が出てくるかもしれない。とりあえず差し出された手のひらを握り、口を開く。


「‥‥‥一矢当いしとう 死唄しおん です。端末課から転属してきました」

「おぉ、しおんっていうの⁈ 可愛い! ボクのことは聴ノって呼んでいいから。ボクも『しおん』って呼ぶね‼」

「‥‥‥いいですけど」

「敬語はナシ‼ ボクたち同い年なんだよ? タメ語でいこうよ♪」

「資料、見てたんじゃないのか? 聴ノ。お前、後でちょっと来い」

「え~ナニぃ? ボクに手を出すのはやめた方がいいよ~おじさん。痛い目じゃすまないからね」

戯言たわごとをやめろ。‥‥‥本当に後で来い、」


 誠トが目を吊り上げ、聴ノを睨んだ。


「はぁ~い‥‥‥」


 露骨にテンションの下がる聴ノ。その姿がまるで、母親にお菓子を買ってもらえなかった子供の様で、ふっ、と笑ってしまった。


「あ、笑った‼」


 聴ノがめざとく反応してきた。

 なんだか、警戒していたのが馬鹿らしくなってきた。別にわからないのなら聞けばいいじゃないか。


「あの、色々聞きたいことがあるんですけど」

「敬語はナシっていったのにぃ~」


 むぅ~と、頬を膨らませる姿が可愛らしくて、なんとなく変な意地を張るのもどうでもよくなる。


「‥‥‥さっきから出てくる、AKS-Bってなんでs‥‥‥何なの? 聴ノ」


 名前を呼ばれてうれしかったのか、聴ノが笑顔をこぼす。が、死唄の問いを理解すると、怪訝そうな顔をして、


「え、? 知らないの?」

「ええ‥‥‥うん。何も聞いてない」


 まさか、と誠トが驚きの声をもらす。まるでそういう絵画かのように、キレイに弧を描いた右手が、頭を抱える。絵になるな。と、思考の一部がどうでもいいことを考える。


「長官は、何も伝えなかったのか‥‥‥?」

「今朝、メンバーカードみたいなホロデータは送られてきましたけど。転属が決まったときも、特に何も言われませんでした。誠トさん」


 一応、「イマジネクト」を操作して、例のカードを顕現させる。


「すまない、長官には後で言っておこう。―――さて、そういうことなら少々説明が必要かな」

「聴ノ、説明してくれ。そういうのはお前の方が得意だろう」


 そういうと、聴ノが、


「おっけ~。それならそうと言ってくれればよかったのに。まあそういこと見たいだから、ボクが、AKS-Bと、キミの役割について説明するね」


 そこで一呼吸置いて、聴ノが語りだす。

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