2
死唄は、訓練施設に立ち、制限の施されたホロガンを握ったとき、中学の頃の記憶が蘇り、危うく、銃を取り落としそうになった。
「どうしたの、しおん?」
俯く死唄を心配してか、向かい側に立つ聴ノが訊いてきた。
「‥‥‥ん、大丈夫、なんでもない」
大丈夫だ、本気を出さなければいいだけ。普通に、戦えばいい。聴ノに、圧倒されてしまえばいいだけだ。
障害物などが散りばめられた訓練施設。指令室よりかははるかに広いその空間の、端と端に死唄と聴ノが立つ。
天井部分に備え付けられたスピーカーから、声が聞こえる。
『では、今からデータ収集のための戦闘訓練を始める。大丈夫だとは思うが、聴ノ、相手は一応君と同じ女性だからな』
一応と、他人につけられるのは少し不愉快だったが、そういう意味ではなく、多分彼なりの配慮だろう。
「20秒後に開始する。二人とも、実戦だと思って望んでくれ」
直後、電子音声によるカウントが開始された。
「しおん、ボクは大丈夫だから、思いっきりお願いね‼」
口に手を当てて施設の反対側から叫んできた。
しおんも叫び返す。
「努力するよ」
少し声が震えていた気がしたが、気づかれるほどではないだろう。
聴ノが臨戦態勢に入った。腰を低く落として、後ろ手に両腕を固定する器具が、カチャリと音を立てた。
死唄も、一応腰を落とす。武道といえるものは、警官に必要な柔道ぐらいしか習得していないし、それも大部分忘れている。そうなると習得しているというのもおこがましい気がするが。取り合えず、銃を構え、サイトを聴ノに向ける。
三つの凹凸の先に、聴ノが楽しそうな笑みを浮かべて、カウントを聞いている。
残り5秒。
ゼロになった瞬間トリガーを引く。自分はそれだけすればいい。アニメや漫画のキャラクターのように、踏み込んで敵に接近する必要なんてない。
要は、死唄の行動をデータ化して、聴ノに送るためにする単なる射撃訓練だ。
死唄は、訓練施設に入る前に聞いた誠トの説明を思い返した。
『端的に言うと、一矢当くんの動きをデータ化して、聴ノのイマジネクトに送る。そうする事により、君が一番撃ちやすい行動で、聴ノは動く。まあ百聞は一見に如かずというし、実際に体感してもらった方がいいだろう。だが、それは後だ。このデータ収集は、いうなれば準備体操のようなものだと思ってくれればいい』
まあだから、死唄は撃てばいいだけだ。
残り3秒
2
1
ブー‼
という派手なブザーが開始の合図をした。
その瞬間、死唄は幻影のトリガーを引いた。
銃声が轟き、弾丸が発射される。
弾丸は、寸分の狂いもなく聴ノへとまっすぐに飛ぶ。
そして、その軌道通りに、
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