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 ――――そのさきにあったのは、閑散とした会議室だった。当然、このエリアにあるのだから当たり前なのだが、あまりにも予想と違っていた。


 照明の点いていない薄暗い部屋には、遠目からでもわかるほど、ホコリの積もった長く大きい会議机。眼を凝らしてみれば、シミのように広がったカビが生える椅子。


 どう見てもここが使われているとは思えない。それどころか、課が存在しているのかすら怪しく思えてきた。


「何、ここ‥‥‥」


 ため息交じりに心中を具現化する。バカバカしくなってきた。もしかすると自分は、若さ故に扱いに困り、飛ばされただけなのでは? 長官に連絡しよう、死唄しおんは「イマジネクト」を操作し、メールを作成しようと手を眼前に上げた。


 モーションコマンドでウィンドウを呼び出して、メールアプリを開こうとしたとき、視界の端に違和感を感じた。なんとなくそちらに目を向けた。そこには、原始的な照明のスイッチが、壁に引っ付くように設えてあった。


 照明をつけたところで、見えるものもないだろう。気にすることはない、ウィンドウに向き直りメールを‥‥‥結局、好奇心に抗えなかった。


「というかコレ、点くのかな」


 ここまで廃れた部屋だ、さしものLEDといえど、切れている可能性が高い。どうしようか、別に迷うところでもないのに、グダグダしている。理由はわかっている。飛ばされた事を認めたくないだけだ。だっておかしいじゃないか、勝手に採用しておいて、やっぱりいらなかったなんて。


 警視庁そのものを責めたくなってくる。まったく、何故自分はこんなにイライラしているのか。


「ああ、本当に、めんどく――――――」


 ガタン!!


「っしゃい⁈」


 悪態を突こうとして、唐突な物音に肩も呂律も跳ね上がった。

 思わず壁に手を突く。


「何か落ちた? でも誰もいな―――――」

「生体認証‥‥‥一矢当 死唄‥‥‥登録完了」

「なにっ⁈」


 またも唐突に物音‥‥‥電子音声が聞こえビクつく。

 何が起きた?


 ガコン


「へ?」


 音に気づいたときには、もう遅かった。


 今まで死唄が立っていた床が、抜けた、、、

 途端、エレベーターにも似た落下感と浮遊感が死唄を襲った。

 落下中には身体を震わせることもできず、声にならない息が漏れる。


「っ」


 落ちているのか? 何故? どこに?


 周囲を見回そうにも、思わず目を閉じてしまって、恐怖で開けることができない。自分はこんなに女々しかったか? 一応、女子ではあるけれど。


「っん⁈」


 今度は失速した。緩やかに速度が収まっていく。

 最後は、とっ、という小さな衝撃音が響いた。


 恐る恐る、目を開ける。が、視界は真っ暗で、何も見えない。

 ‥‥‥いや、これは自分の手だ。庁内に入るとき、義務付けされている消毒の匂いが微かに香った。


 いつの間にか、両手で顔を覆ってしまったようだ、格好悪い。

 手を放し、開けた視界を受け入れる。暗闇から光が差し込んできて眩しい。細めた目を、恐る恐る開いていく――――――


「来た来た‼ ボクの半身!」

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