二弾 装填

1

 警視庁、とでかでかと刻まれた大理石を横目で流し、死唄しおんは門を跨いだ。


 厳かな雰囲気の玄関に、警備員が二人、鋭い目つきで立っている。

 退屈ではないのだろうか、といつも思うが、それも仕事なのだろう。


 二人の間を通り抜け、警視庁の本部へ入ろうと、入口へ寄ったときだった。


「お嬢さん、警察に何か用かな? だったらまず親御さんと一緒に来ようか」


 右側に立っていた警備員が声を掛けてきた。よくよく顔を見ると、その警備員は、毎朝目にする厳つい顔の男ではなく。鋭さをやわらげた顔に、人の好さがにじみ出る青年だった。20代前半といったところだろうか。


「あの、すみません。私、ここの人間なんですけど」


 玄関を指さし、自分が警察関係者であることを示す。しかしながら、目の前の警備員は目を細めて、


「冗談はよくないよ? 君、高校生? いくつかな?」


 死唄の発言を、本気にせず、追い返そうとする。

 仕方なく、死唄は「イマジネクト」を操作して、先程の警察手帳に代わる、証明書をホロ表示する。

 それを、相手に見えるようにウィンドウを移動し、指さす。


「なんだい? 僕は今仕事中だから、遊びには付き合えないんだけれど‥‥‥」


 疑問形の多い青年警備員は、死唄の差し出したウィンドウを見て、言葉を止めた。

 一応、警備員に見せた証明書の内容をまとめるとこうだ。


 警視庁 脳魔弾殺人対策課 一矢当 死唄 狙撃官 十八歳、、、 女


 内容を確認し、理解を終えた警備員は、


「し、失礼いたしました狙撃官ッ!!」


 と、慌てて叫んだ。

 別に謝ることではない。そもそも死唄がもっとわかりやすい恰好をしていればいいのだ。それに、警備員は、死唄をまだ若い少女と勘違いしたのではない。


 実際その通りなのだ、事実を見て判断しただけ、仕方のないことだ。

 何せ死唄は、十六歳にして警察官の仲間入りを果たした、いわば異端児なのだから。

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