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 それは、


 脳で思考したことをホログラム、、、、、、、、、、、、、、として、完璧に投影再現、、、、できる。


 というものだった。また、そのホログラムの情報を、ネットを介して別の

「イマジネクト」ユーザーにリアルタイムで共有できる。


 たとえば一人のユーザーが、リンゴを想像し、ホログラムとして投影したとする。それを、通りすがりの他のユーザーも、視認できるということだ。


 そしてこのデバイスは、見た目だけではない、音と感覚をも共有できる。ホログラムに触れたとき、その感触や音をデバイスが疑似感覚として、直接、信号を脳に送信、共有する。


 データという概念を超越したデバイス、それが「イマジネクト」だった。


 このデバイスの登場により、世界は大きく進歩した。不登校児も疑似登校を始め、自宅療養中の会社員も、会議に参加している以上の仕事ができる。


 そうやって、新型ARデバイス「イマジネクト」は世界進出を果たし、ついには先進国での装着の義務化が定められた。


 そして、死唄しおんの居る日本も例外なく、義務付けられた。

 しかし便利で、革新的な「イマジネクト」にも、ファクターは存在した。

 いや、致命的な大穴があった。


 それは、凶器の具現化、、、、、、の可能、という点だった。

 世界では、すでに普及されすぎてしまった「イマジネクト」は、もはや回収などできるものではなかった。扱いは必需品。ひと昔前の携帯端末と同等以上だった。


 そして、5年前、起こり得てはいけない事件が起こった。それが、


 脳魔弾殺人事件、だった。


 ガンマニアの男性が、日頃から目にしていた銃をホログラムとして具現化し、その銃口を、通行人に向けてしまった。


 ホログラムなのだから、別に流血沙汰にはならない、そう誰もが思っていた。むろん死唄もそのニュースを見たとき、にわかに信じられなかった。


 だが、忘れないでほしい、「イマジネクト」は、感覚すらも共有し、ユーザーが思考したことを具現化、、、させる。


 ホログラムの銃を握った男性は、射出される銃弾を想像し、「イマジネクト」はそれを忠実に再現した。結果、幻影の銃から、幻影の弾丸が発射される。


 その射線上にいた、通行人の女性は、飛来する弾丸を視界に捉える。当然、人は恐怖を覚え、その先の未来をとっさに想像してしまう。


 そして、「イマジネクト」は、その想像された銃弾と、弾丸が抉る肉体的被害を、再現した。


 弾丸が突き刺さり、内臓を喰い破って血液が大量に流出し、死に至る。

 人は案外忠実に、順を追って、死を想像するのだ。

 そして思考の果てに、デバイスは冷酷に、無慈悲に、脳に停止命令の信号を発する。


 そうやって受けたはずのない傷が、女性の体を、脳を蝕み、死に追いやった。

 その事件は当初、事故として扱われた。しかし、男性の確実な犯行意識が見受けられ、意図的な暴行的行為とみなされ、事件に変わった。


 そして、ついた名前が、脳魔弾殺人事件というわけだ。

 脳が作り出す魔弾。その名の通りだ。


 それから、「イマジネクト」関係限定の事件を、脳魔弾殺人と呼称するようになる。

 後に、脳魔弾殺人対策課という、専門機関が出来上がった。

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