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朝食は携帯栄養食を胃に押し込んだ。(最近買い物に行っていなかったので冷蔵庫に何もなかった)
仕事用のフォーマルな服に着替えた
天気アプリを立ち上げる。
今年の冬は、大寒波とやらで例年よりも寒い。アプリに表示されている予想最高気温も、上がっていないのと変わらないのではないか? というものだった。
ベッド脇のクローゼットから、薄手のコートを取り出す。去年なんとなく買ったものだ、使用回数は片手で数えられる程度。
しかし、今年はお世話になりそうだ。
フード付きの少し洒落たこのコートは、仕事服の上に着るにはやや違和感があったが致し方ない。これしかないのだから。
お洒落に興味がないというより、よくわからない、センスがないのだ。
小学生の頃張り切ってコーデした私服は、ダサいと切り捨てられた。
今思えば確かにダサかったのかもしれないが、今思ってもどこがダメだったのかわからない。
コートを羽織り、家の鍵をポケットに突っ込み、準備を済ませる。
眼前に投影された、ウィンドウの時間表示を視ると、家を出なければいけない時間になっていた。30分余裕があったはずなのだが、携帯食と一緒に飲んだ珈琲を、ゆっくり堪能しすぎたのかもしれない。あるいは、冷たい水に四苦八苦した、皿洗いに時間をかけたのか。
そんなのんきなことを考えながら玄関の外に出た。
五階建てのアパートの、部屋同士を繋ぐ外廊下は、予想通りの冷風が吹き付けていた。死唄の部屋はその4階の最奥、407号室だ。風が強いのはそのせいかもしれないが。
重い足を動かして階段に向かおうとした、その時だった。
ピコンと、またも気の抜ける通知音がデバイスから響いた。
『
端的に記された内容の文面がポップアップし、横にタブボタンが表示される。
指先で軽くタップすると、一枚のカードが、ホログラムとして顕現した。
カードに描かれているのは、一単語のアルファベットと、そこに名刺のように書かれた、所属記載だった。
「AKS-B所属 一矢当 死唄」
なんだ、“AKS-B”って。転属先は、脳魔弾殺人対策課だったはずだ。
『脳魔弾殺人対策課』
警視庁内でもっとも扱いに困ると言われている課だ。とはいったものの、人員に問題があるだけらしい。死唄は特に気にしていなかったので、転属が言い渡されたときも、何も思わなかった。
しかし、その担当する事件については、異を唱えたかった。
脳魔弾殺人、この事件種を説明するには、少し現代についての説明も必要だった。
死唄の生きる
人類は、完璧なAR(拡張現実)技術を実現した。
あるベンチャー企業が開発したARデバイス、「イマジネクト」
そのデバイスは、コンタクトレンズのように目にはめることができ、その神経を通して、脳から直接信号を送受信できるという代物だ。
そして、このデバイスの最大の目玉機能。それは、
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