8.無人島にも人の影

 イベントフィールドは無人島です。ですが、無人というのは必ずしも未開拓という訳ではありません。

 鬱蒼と生い茂る森の中で私が見つけたのは、木の根に埋まるように朽ちていた石材でした。ボロボロになっていますが自然に生成される形状ではありません。人がいた痕跡です。


 周囲をよく観察すれば分かるのですが、この加工された石材は至る所にあります。元々あった建造物が朽ちて森になるまで、どれほどの年月が経過したのでしょうね……

 人が住んでいた時代まで遡れば、恐らくですが、何かしらの歴史が浮かび上がるんじゃないでしょうか? 知りませんけど。


「――ぇ!」

「お……っと」


 少し離れた場所から声がしました。どうやら戦闘中のようです。こんな場所でも魔物は生息しているんですね。

 戦闘に巻き込まれる前に避難しておきますか。具体的には木の枝に。


「……ん?」


 そこそこ高い木の枝に登った私ですが、ふと上を見上げるとひしゃげた物体を見つけました。

 回収してみるとそれは盾のようで、雨風で錆びてはいますが原形を保っています。盾を使う予定は無いので捨てておきますが、やはり人がいたのは間違いないようです。


 となると、なぜ人がいなくなったのか……島の謎に関係していそうですね。


「奥に行けば何かあるかな……?」


 地上には魔物がいるようですから、私は木の枝を伝って奥へと進みます。

 セカンドワールドにはシステムとしてのマップがありますが、通ったことの無い場所は空白になるので、今回のような場合は役に立ちません。


 っと、真下に二足歩行の狼がいました。初めて見る魔物ですが、私の偏った知識から推測するに、コボルトかワーウルフでしょう。

 奇襲して経験値を回収するのもいいですが、イベントの内容が島の調査なので、経験値は後回しです。


 とにかく西を目指して移動しているのですが、やはり進めば進むほど魔物と遭遇しやすくなりますね。戦闘らしき音が多くなってきましたし、足下を通る魔物の中には狼系の他に猪や熊などがいます。

 狼系は3体から5体ほどの群れで移動しているのでパーティーでの戦闘が推奨でしょう。猪や熊は1体だけで行動しているのでこちらはソロでも戦えるはずです。


 さて、そうこうしていると森を抜けました。

 山……では無いですね丘ですか。ですが目の届く範囲でも切り立っている部分があるので、登るのは簡単では無さそうです。

 その周辺はなだらかですね。

 他の異人は見当たりません。私の移動が速かったのでしょう。


「……もう人がいるのか」


 背後から声を掛けられました。

 振り返ると、そこには陰鬱そうな青年が立っています。道士風の装備を着ていますが、妙にダボッとしていますね。


「…………速いんだな」


 それだけ言うと、彼はさっさと立ち去りました。動きの速さ的に、斥候系のスキルが多いのでしょうか。

 私は速いと言うより、遭遇しないよう移動していただけなので……もし戦いながら移動していたら、倍以上の時間が掛かっているはずです。


 まあ、対人が主体のゲームではないですし、他の異人のスタイルを考察する意味はあまり無いですか……。大人しく探索を続けましょう。

 彼は北側へ行ったので、私は反対である南に向かいましょうか。


「――っと、猪か」


 岩を粉砕して突撃してくる猪とか、リアルにいたら恐怖でしかありませんね。

 とりあえず、繊細な動きはできなさそうなので横へ避けて攻撃を置いておきますが……力が強いですね。ダメージは入りましたが腕を持って行かれるかと思いました。

 見た感じだと一割と少し……でしょうか。


「一回見たからね……!」


 再度の突撃は上空へ待避します。ハルバードを地面に突き刺し、勢いを付けて半回転。そのままハルバードを引き抜いて空中で姿勢を変えれば、遠心力と重力が加算された重たい一撃を食らわせることができます。

 見事に真っ二つですね。過剰でしたか。


 ……ですが、少し物足りないですね。いえ、バトルジャンキーでは無いのですが、ここではロスト・ヘブンの時みたいに奇襲して叩きのめしにくいというか、スカッとする戦闘に持ち込むのに手間が掛かるんですよね。

 嗚呼、遮蔽物だらけで身を隠しやすく敵の方からやってくるロスト・ヘブンが懐かしい……


「まあ、嘆いていても仕方ないか。セカンドワールドに合わせた戦い方を模索しないとなぁ……」


 飛びかかってきた蛇の首をちょんぱしつつ、私は移動を再開しました。

 というか、魔物判定じゃない生物も普通に生息しているんですよねこの無人島。今倒した蛇なんかも魔物じゃないですし。

 この島は今までどこにあったのか、とても気になりますね。


「平原……草原? ポータルがあるようなので登録だけして――っ!」


 一歩踏み出した瞬間、ずぶりと私の足が沈みました。

 嫌な予感がして咄嗟に引き抜きましたが、直後に大きな口が現れたので、迂闊に進まない方がよかったみたいです。

 草原に偽装した沼地……もしくは同化するような魔物がいるのでしょう。かなり危険なフィールドです。


 私の得意なゲリラ戦が不可能なフィールドでもあるので相性最悪です。

 どうするべきでしょうね。迂回して進むのが正解なのか、魔物を倒すのが正解なのか……。――いや、こういう状況にぴったりなスキルを持っているじゃないですか私。


「【鑑定眼】……【看破】……! やっぱり」


====================

粘液泥魚マッドフィッシュ・スライム レベル8

====================


 【鑑定眼】だけでは何も分かりませんが、そこに【看破】を加えると魔物の情報を得ることができました。


「いるのは恐らく……ここ!」


 ついさっき私の足が沈んだ場所、そこにハルバードを叩き込めば案の定。どろりとしたナニカを割った感触が伝わってきます。

 何も無い泥を叩いたような気分にもなりますが、二度三度と攻撃を続けるとポリゴンとなって消えていき、ちょっとした窪みが地面に残りました。

 この魔物が窪みの部分に溜まっていたから、私の足は沈んだのですね。


「なら、進む先が窪みになっていないか確かめれば、安全に移動できるはず」


 ハルバードの先端でとんとんと地面を小突きながらゆっくりとポータルに向けて進みます。

 沈んだ場合は迂回したり、迂回が無理そうなら倒してそのまま真っ直ぐに。

 ポータルまでの距離はだいたい、一〇〇から二〇〇メートルほどです。かなり気を遣ったので時間が掛かりましたが、無事たどり着くことが出来ました。


「これでポータルは二つ……」


 恐らくですが、このポータルが探索の際の中心地になるのでしょう。

 上陸した時点では分かりませんでしたが、どうやらこの島は縦長の地形のようで、私がいる場所よりさらに南にも地面が続いています。

 周囲の魔物……魚? スライム? の対処法さえ広まれば、次第に異人達が集まるようになるはずです。住人がここまで来るかは不明ですが、来なかったとしても東側のポータルには来るでしょう。


 となると、私は更に南へ進んだ方がいいかもしれません。

 どうせ人海戦術で後からマップは埋まるはずなので、島の地形をだいたいでも把握したほうが有利になるはずです。

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