一章:憎念に抗え

7.イベント開催

 ログインしました。

 私はここ数日、東の森で狩りをしつつ時々クエストの配達で港街に行ったりしていました。オーダーメイド品のハルバードには特別な効果はありませんが、腕がいいのでしょう……癖が無く扱いやすいです。


 攻略組は北の街に到着して装備をアップグレードしたらしく、私の装備品より性能が一段階ほど高いでしょう。北はゴーレムや亀のような魔物が多いらしいのでしばらく行くことは無いですね。それよりも……


「参加するしかないよね」


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第一回公式イベント『未開拓の島を調査せよ』開催予定!


 港街シュアデルセの船乗りが未開拓の島を発見した。前日まで何も無かったはずの海上に現れた島の謎を解くべく、冒険者ギルドが調査隊を派遣した結果、異人のみが使えるポータルが稼働した状態で設置されているのが判明した。

 報告を受けた冒険者ギルドは異人たちに調査を任せることを決定し、調査船と補給品の手配をしている。異人たちよ、島の各地に設置されたポータルを駆使して島の謎を解き明かせ!


※本イベントは七日間開催されます。イベント期間中、イベントフィールドでの経験値獲得量が五〇%増加します。

※イベントフィールドは港街シュアデルセの調査船に乗ることで上陸することが可能です。

※イベントフィールドはイベント終了後、イベント終了時の成績に応じた状態で通常フィールドとして実装されます。

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 イベント開始は明日の正午からです。港街シュアデルセは初心者でもパーティーを組めば行けるので、休日というのもあって参加人数がとても多そうですね。

 恐らくプレイヤー全員にレベリングをさせつつ、この世界がどのようなものなのか改めて周知させるのが目的だと思うのですが……


 とりあえず装備を更新しましょう。ここ数日の狩りでレベルが15になりましたし、三つの武器系スキルは進化しました。それ以外のスキルレベルも上がっています。

 今の装備は誰でも購入できるようなものですので、そろそろ買い替えたかったんですよ。


「いらっしゃい……。脱兎フードの新作あるよ……」

「また作ったんですか?」

「脱兎の素材は優秀だからね……」


 防具専門店の店主は少しマッドな印象を受ける女性の方ですが、彼女が作る防具は値段の割に優秀なものが多いと評判です。半分は脱兎フードですけど。


 店の入り口近くには客引きのためか、目が飛び出るようなお値段の豪華な鎧や貴族風の衣服が飾られています。

 店内に並べられているのは殆どが布製は革製です。全身鎧も置いていますが、それよりも一部分だけを覆う部分鎧の方が多いです。


 私はクエスト報酬で稼いだ一〇万SGで購入できる装備を探します。腕は金属製の部分鎧と決めていますが、これだけで3万SGが吹っ飛びます。軽くて丈夫な金属はお高いのです……。

 足は編み上げのロングブーツが私の好みに合致しました。腰はポーチ付きのベルトにします。


 そして肝心の衣服ですが、実は布製の防具だけその上から別の防具を重ね着できるんですよ。なので防御力は考慮せずに俊敏に補正が掛かるものを選び、重ね着する防具には防御力が高いものを選びました。

 頭はより高性能な脱兎フードに買い替えます。店主さん――名前は教えてくれませんでした――曰く『魔改造できるから拘りがなければ脱兎フード一択』らしいので。


「合計九万SGだよ……。今着けている脱兎フード、使い道がないならこっちの強化素材にできるけど、やる……?」

「装備って強化出来るんですか?」

「【合成】の上位スキルが必要だけどね……。脱兎フード使ってくれる人少ないからサービスしてあげる」


 うさ耳付きですからね脱兎フード。可愛いとは思っても身に付けるのが恥ずかしい人、結構いると思います。

 ここは店主さんの好意に甘えて、脱兎フードを強化して貰いましょう。


「すぐ終わるからね……」


 そう言って脱兎フードに手を翳すと、今まで使っていた方が淡い光となって新しい方に吸い込まれていきました。装備を強化する光景は初めて見ましたが、神秘的な割にあっさりとしています。


「終わりだよ……。これからも贔屓にしてね……」


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『ロザリー』レベル15


右手:鋼鉄のハルバード

左手:――


防具:脱兎フード+1

  ├紳士な衣服(上)─インパクトボアの胸当て

  ├紳士な衣服(下)

  ├ハイドスネークのベルト─頑丈なベルトポーチ

  ├軽鋼の腕鎧

  └頑丈なゴシックブーツ


装身具:妖精の悪戯羽


スキル:【戦士LV3】【ハルバードLV4】【鑑定眼LV2】【看破LV8】【悪路LV3】【襲撃LV6】【状態異常耐性:麻痺LV2】【状態異常耐性:毒LV2】【状態異常耐性:出血LV2】【採取LV11】


所持金:10,783SG

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 能力値の確認は出来ませんが、装備を変更したことによって補正値が倍になっているはずです。

 脱兎フードには全ての能力値が上昇する効果がありますが、地道に強化し続けないと微々たる上昇量しか得られないとアドバイスを貰いましたので、これからは強化に使えそうな素材は売らずに取っておくことにします。




 翌日の昼前にログインし、私は消耗品の最終チェックを済ませてポータルでシュアデルセに移動します。ポータルは一度訪れた街なら自由に移動できるので便利ですね。

 街中はすでに異人で溢れかえっていますが、イベント開始前から調査船に乗れるそうなので、サービス開始時の始まりの街よりは幾分か増しです。


 時間まで暇なので、妖精が作った装身具を売っていた商人でも探しましょう。どうせ会えないでしょうが、もし会えたら少しぐらい問い詰めてもいいと思います。

 補正値自体は優秀なので文句を言いづらいのが厄介なんですよね。


「――っと、すみません」

「ああ、こっちこそすまない。消耗品の確認をしていたんだが、周りが見えてなかったみたいだ」


 見覚えのある姿を探してふらふらしているとぶつかってしまったので咄嗟に謝りましたが、どうやらお互い様だったようです。


「ところで、誰か探しているみたいだけど……?」

「そうですね、探していました。いないとは思いますが」

「イベントまで時間はあるし、ぶつかったお詫びとして手伝うよ」

「いえ、大丈夫です。これがあればそのうち寄ってくるかもしれませんし」


 私が身に付けているピアスのフレーバーテキストには、妖精が寄ってくるかも……? と記載されているので、あの商人の正体が予想通りなら向こうから接触してくると思います。

 それに、リア友ならともかく初対面の人に手伝わせるようなことでもありませんし、彼の提案は断っておきます。


「そうか。なら、イベント内容にもよるけど、もし手伝えることがあれば呼んで欲しい。不注意でぶつかったお詫びだ」


 フレンド申請が来ました。律儀な人だと感じたので許可しておきます。少なくともナンパ目的ではないでしょう。

 一人の手に負えないことがあれば、彼の提案通り手伝って貰いましょうか。

 それにしても……彼のディルックという名前、どこかで見た覚えがあるんですよね。どこでしたっけ……?




 さて、そろそろ時間ですが……


『――プレイヤー諸君、GMの安堂だ。この世界での記念すべき第一回公式イベントだ。期待に胸を膨らませている者も多いだろう。さて、イベントフィールドは調査船に乗り込んで向かう事になっているが、私から言うことは特にない。探索をしつつ存分に遊んでくれたまえ。以上だ』


 通知音が鳴るUIが自動で開き一人の女性を映し出しました。フォーマルなスーツの上から渋紙色のコートを羽織った、紅い髪を後ろで束ねた女性です。頭上に天使の輪っかみたいなものが浮いています。


『あー、GMの久木です。イベントフィールドには様々な素材が自生し、様々な魔物が生息しています。生産をメインにしている人も活躍できるよう調整してありますので、準備を整えて挑んでください。それと、基本的な内容は前日お知らせした通りですが、隠し要素も幾つかありますので頑張って探してみてください』


 もう一人は真面目そうな男性です。こちらもスーツを着ていますし、輪っかも浮いています。

 それにしても隠し要素ですか……やはり調査がメインの内容となるようですね。隠していると言っている以上、注意していなければ気付かないようなものなのでしょう。


 異人たちがぞろぞろ船に向かっていきます。

 私も向かいましょう。ガレオン船に乗船する機会なんてゲーム内でしかないでしょう。少しワクワクします。

 隠し要素……見つけたいですね。


 ガレオン船は常に一隻が港に停泊するようローテーションで出港しています。波が穏やかなので酷い揺れも無く、甲板に出て短い海の旅を堪能している人もちらほら見かけます。かくいう私も堪能していますよ。

 あ、タイタニックごっこしてる人がいます。この船沈みませんよね?


 ゆらゆらと波に揺られて進むこと30分、視界の先にイベントフィールドが見え始めました。思っていたよりも大きい島のようで、探索にはかなりの根気が必要そうです。

 小舟で上陸し、早速ポータルを確認します。


 複雑な紋様が刻まれた土台の上に浮かぶ巨大な水晶、それが私たち異人のみが使えるポータルです。ここにあるのは街のものより小さく、土台にはフジツボらしき物体がこびり付いており、潮風での劣化らしき部分もあります。

 ですが機能に問題は無いようで、他の街にあるポータルと同じように使えそうです。


 ……さて、まずは森を探索してみましょうか。

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