3.スキル取得
昨日ログアウトするまで探索した結果、暗殺桃は五〇個ほど手に入りました。ゴブリンも何体か倒したことでレベルは4に上がっています。
そして今日やることですが……スキルの取得をします。
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取得可能スキル
【健脚】
【鑑定】
【奇襲】
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……【戦士】が見当たりませんね? 私のスタイルがアレなので分かっていたことですが、やはり【戦士】などのスキルは正面から戦わないと条件を満たせないようです。その代わりに【奇襲】がありますが、あって損は無いので取っておきましょう。
【健脚】は悪路の移動がしやすくなるスキルで、【鑑定】はアイテムの詳細を見ることが出来るようになるスキルです。
昨日の携帯糧食は【鑑定】が無くても見れましたが、あれは最初から持っていたから見ることが出来たのであって、昨日の間違いを起こさないためにもこのスキルは必須になるでしょう。
取得するための条件はそれぞれ、【鑑定】を一〇回試みること、悪路を徒歩で一時間移動すること。
三つともレベル1で取得出来たので、早速確認します。
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『ロザリー』レベル4
右手:初心者用ハルバード
左手:――
防具:旅人の服
スキル:【鑑定LV1】【健脚LV1】【奇襲LV1】
所持金:60SG
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ちゃんと反映されていますね。スキル数に制限は無いそうなので、レベルを上げつつスキルを集めるのが基本的な方針になるでしょう。武器防具も欲しいので金策も必要です。
ですが、今は先にやるべき事があります。
一旦街の外に出て、脱兎がいるフィールドへ向かいます。
「よし」
遠くに脱兎が一匹見えますが、追いかけずに無視します。暗殺桃でスキルを取得できるようになるか検証しつつ、これの果実で誘き寄せられないか試すのです。
周囲を見渡せる場所に居座り、まずは小指の先ほどの量から食べましょう。
……はい、毒の状態異常が付きました。ですが、HPの減りは前よりも緩やかです。皮にある解毒作用が働いているのでしょう、状態異常が二〇秒ほどで解除されました。
減少したHPは四割ですか。取得可能スキル欄を確認しながら次……の前にポーションで回復しておきます。デスペナルティでお金とアイテムを失うのは痛いですから。
繰り返していたら夜になりました。
体感ではそろそろ寝る必要があります。この世界はリアル時間と同期していますが、明日は休日なのでこのままセカンドワールド内で寝ましょう。おやすみなさい。
成果はまだありません。
翌日も同じ作業をして検証を続けます。
それと脱兎ですが、皮が無くなった暗殺桃を小さく分けて地面に置いていたら寄ってきました。罠扱いらしく、死んだ脱兎の経験値とドロップ品がたまに手に入りますが、肉は毒に冒された兎肉になっているので食べられません。
皮は売れるので、お金になるのが救いですか。……経験値? ゴブリンの方がマシですよ。
「――うん?」
一回に食べる量が親指ほどになって数回繰り返すと、取得可能スキルに予想とは少し違うスキルがありました。
【状態異常耐性:麻痺】と【状態異常耐性:毒】です。もしや、この実を食べたときに罹る状態異常の耐性全部取れるのでは? 残るのは出血だけですか……試してみましょう。
……出ましたよ【状態異常耐性:出血】。取得するだけなら何も失うものはないので全部取りましょう。
これで毒、麻痺、出血に対する耐性が手に入りましたね。残った暗殺桃は売りましょう。食べかけのは脱兎用に投げ捨てておきます。
実は【悪食】というスキルも取れるのですが……こちらはデメリットとして味覚音痴になるようなので取るつもりはありません。美味しいものを美味しく感じることが出来ないのなら、私にとってはむしろ有害ですらあります。
野生のものは不用意に口にしない教訓を得た以上、同じようなことをするつもりもありませんし。
「ところで、嬢ちゃんは冒険者組合に登録しないのかい?」
「はい?」
三日目だというのに馴染みに感じる店で売買をしていると、店主のおばあ様にそう訊ねられました。
冒険者組合……冒険者組合……組合……ああ、あれですか。見たような聞いたような曖昧な記憶を思い出した私は、まだ登録していないことに気付きます。
「異人なら登録していなくても問題は無いが、魔物から手に入る素材を全部買い取れるのはあそこぐらいさね。暗殺桃みたいなのも適正価格で買い取っているから、登録して損は無いよ」
「なるほど……ゴブリンと脱兎の素材があるんですが、売れるでしょうか」
「売れるさ。ただ、脱兎の素材なら【錬金】や【裁縫】の店の方が高く売れるね。肉は……安くてもいいなら猟師が買い取ってくれるが、その状態のは冒険者組合に任せるのが一番だね」
アドバイスを頂けたので、早速登録に向かいましょう。
冒険者ギルドの建物は広場の近くにありました。人の出入りが激しいですが、その殆どは初心者装備の異人です。
「冒険者ギルドへようこそ」
「登録したいんですけど」
「はい。ではこちらに記入をお願いします」
言われたとおり記入しようとしましたが……日本語でいいんですかね? いえ、現地語で書けって言われても不可能ですし、そもそも現地語があるかどうかすら知りませんし。
――って、UIからでも記入できるんですか。UIで操作した内容が紙に反映されるのを見ると、やぱりゲームなんだなって感じます。
名前はロザリー、スタイルは……スキル無いけど戦士にしましょう。念のため括弧で奇襲型とも。渡したら苦笑いされました。
ともあれ、登録はこれで終わりのようです。
「それと、この素材の売却って出来ますか?」
「出来ますよ。ゴブリンの素材は一つ200SGで……毒肉は50SGにしかなりませんがよろしいですか?」
「ええ、構いません」
毒肉の活用方法なんて知りませんから。工夫すれば罠に使えそうですが、罠を作る知識なんて持ってないですし、毒肉を食べた獲物も毒に冒されるでしょう? だったら捨て値だろうが売りますよ。
「今後のご活躍を期待しています」
ぽんっ、と《チュートリアルクエスト:冒険者ギルドへの登録クリア》が表示されました。これチュートリアルなんですね。報酬は2,000SGと五級ポーション五個ですか。
さて、次は【錬金】と【裁縫】の店に行って素材を売りましょう。
というわけで売りました。所持金が一万を超えましたよ。まあすぐに無くなるんですけど。
今着ている旅人の服を2,000SGで狩人の服へ買い替えます。腕は3,000SGで軽金属の手甲、足は2,400SGで森林のブーツに。1,000SGでフードを買い足し、残りは消耗品の補充に使います。
さあ、待っていなさい森よ。経験値を寄越すのです!
と意気込んでいますが、その前に食事です。餓死したら笑えませんから。地味ですが空腹は再現されているので辛いんですよ……
冒険者ギルドでクエストを受けて、改めて出発です。脱兎は無視します。
「ギャア!」
「経験値っと」
木の上から奇襲するとスキルのお陰で確殺できるので楽ですね。時間は掛かりますが、やはりこのやり方が私に合っています。
ですが、そろそろ真面目に【戦士】スキルを取得しないといけませんね……
「そこっ!」
「ギギャ! ギャアギャア!」
二体目のゴブリンの胴体にハルバードを叩きつけますが、ゴブリンは持っていた武器を盾にして防ぎました。遠心力もあるのでふらついていますが、倒せていません。
【戦士】スキルは戦士役にとって必須のスキルです。近接武器の威力を底上げし、防御力も常に強化されます。ですが、私にはそのスキルが無いので、ゴブリンと正面から戦えばこうやって簡単に防がれてしまうのです。
何回も攻撃してようやく二体目を倒せましたが、やはりスキルが欲しいですね。武器系スキルを取得すれば【戦士】スキルと効果が重複するので、ハルバードに適切なスキルを探しましょうか。
「……でも、ちょっと休憩。さすがに三連続は厳しいって」
ちょっと大きめな木に登り、枝の上で休みます。
さっきの戦闘ですが、近くに群れがいるのか三連続で戦っていたんですよ。休む暇が無かったので倒してすぐ身を隠し奇襲していました。
こちらは身軽さを重視した性能の装備なのですが、元々森に住み着いている魔物の方が身軽なんですよね……
「――うわあっ!? やめろ! 来るな、助けてくれぇっ!」
スタミナが殆ど回復した頃、奥の方から助けを求める声が聞こえてきました。男……少なくとも成人はしていそうな男性です。
彼の装備は私のものより上等に見えます。武器も防具も異人の中では性能が高いと思われますね。
「ひいぃぃぃぃっ!?」
しかし、彼を追っているのはただのゴブリンではありませんでした。最低でもホブでしょう。
大人をゆうに超える巨躯はゴブリンとは比較にならないほど筋肉質です。その膂力は凄まじく、棍棒の一振りで地面が陥没するほどの威力があります。
おまけに鉄製の武器が直撃してもピンピンしている頑強さは、ステータスの差も相まって恐ろしく感じます。
彼は応戦しつつ逃げていますが、ほぼ確実にやられますね。
ダメージは通らない。逃げても追いつかれる。やけくそになろうものなら即座に死。
ふむ……あれでは私も逃げられるかどうか怪しいですね……
「くそっ……クソオオオオオッ!」
「グッグッグ……」
木の根に躓いた彼は振り下ろされた棍棒で地面の染みとなりました。
私達は死んだらリスポーンするので死体が残ったりはしません。消えていく死体に困惑しているうちに先手を打ちましょう。
「――はあ!」
まず距離を取るのは愚策です。棍棒に力が乗り切らないインファイトで決着を付けるべきです。
なので、奇襲攻撃で視界を奪います。可能なら両目とも潰したかったのですが、直前で気付かれたので潰せたのは左だけでした。
そう言えば、【鑑定】は無機物にしか使えないので、戦闘中に相手のステータスが知りたいなら【看破】が必要なんですよね。条件は魔物相手に【看破】を試みる……だったはずなので、今のうちに回数を稼いでおきましょう。
「グゥゥ……」
人間より大きいとはいえ、あくまでも生物基準での巨躯。約三メートルの体はそれだけで威圧感がありますが、冷静に対処すれば弱点を突くのは容易なはずです。
赤い血を流してホブゴブリンと思われる魔物はこちらを睨みます。
殺気、そして汚い欲望……ハッキリ言って不快ですね。
さて、どうやって倒しますか……
目を潰した側は警戒しているでしょうし、裏を掻くならフェイントからの右でしょうか……!
「グゥガアアッ!」
「くっ、やっぱ威力不足か……――でも、私の武器はハルバードだから!」
「ギィ!?」
ハルバードは出来ることが多いですからね。防がれても斧の反対側に取り付けられた鉤爪を引っ掛けることが出来れば、思いっきり引っ張って体勢を崩せます。刃も付いているので、少ないですが一応ダメージも入ります。
地面を蹴って距離を詰めてきたホブゴブリンは、踏み出そうとした足を横に引っ張られて思い切り転びました。
そして、体勢を崩したホブゴブリンの胸目掛けて先端部分を突き刺します。
「おりゃああああっ!」
ですがもう一手……!
ハルバードを棒高跳びの要領で跳躍のための起点とし、その首目掛けて渾身の一撃を叩き込みます。
「ギャギィ……!?」
「ふっ! はあ!」
傷は底まで深くないものの、首という急所に加えられた一撃は意識をかき乱すのに充分な働きをしました。動揺したその隙を狙って突き、払い、と連続攻撃を仕掛けます。
威力は低いですが私のハルバードはハリボテ。とっても軽いので振り回しやすいんですよ!
「――グゥアギッ!」
「っ、さすがにやられてはくれないか……!」
ですが、攻撃力の低さが仇となりました。HPを削るには全然足りなかったようです。
警戒しつつ思考操作でちらりと掲示板を確認してみると、この魔物の情報が流れていました。上位種であまりにも強力なため攻略組トップでしか倒せないだろう、ですか……
先程の人は【看破】も持っていたらしく、レベルが21もあると書いてありますね。
そして、その書き込みを見た攻略組の人達が討伐隊を結成しようとしています。レベル10を超えているのが参加条件とか書き込んでいますね。
ですが…………
――ふざけるな。
これは私の獲物です。私が倒すと決めた獲物です。
攻略組だろうがなんだろうが、私以外のやつに譲る気はありません。
「……グギ」
殺気が伝わったのか、目の前のゴブリンが剣呑な雰囲気になりました。先程までの嘲るような、舐るような不快な態度を止めて、私を倒すべき敵と定めたようです。
「――ふはっ!」
「――グゥアアアッ!」
詰め寄り、武器を振るう。もはや攻撃力なんて関係ありません。
相手より多く動いて相手より多く当てる。殺し合いなんて突き詰めればそれだけです。
ただの棍棒も圧倒的な膂力のせいで私の武器より高い威力を発揮しています。
筋力はどう考えても私の方が不利……鍔迫り合いをする余裕はありません。受け流してカウンターをしましょう。
ハルバードの角度を調整し、棍棒が左斜め下に動いた瞬間に斬り上げを放ちます。
「ギャァァ……グァギィ……!」
「……ステータスが足らないか」
腕を斬り落とすにはまだ足りませんが、筋を斬られれば腕は満足に振るえません。棍棒がホブゴブリンの手から離れて地面に落ちます。
それでも戦意は消えず、即座に左手で棍棒を拾うと殴りかかってきました。
「右手より遅い!」
「グゥゥ……!」
棍棒を避け懐に入り、先程から重点的に狙っていた間接にハルバードを差し込みます。
ホブゴブリンのHPは残り少なかったようで、傷ついた血管から大量の血液を噴出し、ゆっくりと倒れ伏しました。
対する私のHPは三割を切っています。直撃こそありませんでしたが掠っただけで大ダメージでしたからね……。五級ポーションを飲んで回復しましょう。
五級ポーションは回復量が少ないですが、初心者用ポーションの倍は回復します。初心者用ポーションはレベル5を超えると使えなくなりますから、レベル5が初心者を卒業する目安なんでしょうね。
私のレベルは10に上がっています。ドロップ品にホブゴブリンの魔石があるので、やはりホブゴブリンで合っていたようです。上位種、もしくは変異種でしょう。
さて、街に戻ってスキルの確認をしたらログアウトします。
……討伐隊はどうするのでしょうね? 別個体がいればそっちを倒すのでしょうか?
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