第18話 ドナウド三世

 僕が能力を使って、電波ジャック、建物収納等をやっているのを知ると、

地球に簡単に力を行使できると、勘違いされてる様だ。

 都合が良いので何も言わないが、日本国をカバーできる範囲だ。

移動すれば力の行使は出来る様だが、力の源が山都であり、龍神(知的生命体)

の加護によるもの、したがって無理はしたくない。

 ブラックマターの一種で魔素と呼ばれる物質、ブラック・エネルギーと呼ばれる

膨張する宇宙空間で働く不思議な力の一種が魔力、それが現在の地球に存在しない。

宇宙に広く存在する物質が地上に何故無いのかは知らない、が

魔素、魔力、魔法、魔術と言う言葉が残っていて、魔法は使えないのに、

なぜか、どんなものかが想像できる。

そう、かつては使えていたのだ、失われたのだ、

結果として科学文明と呼ばれる世界に成った、魔法と同様の効果をもつ物を追い

求めた結果が、機械文明だ。

一部は超えてしまった、遥かに超える効果をも持つもの、それが核。

放射線は遺伝子に悪影響を与える。宇宙線も同様に害を成すのだ。

有害な宇宙線から守る、磁気と言う折角の揺り篭で、

自ら滅亡えの放射線を武器とする、愚かな過ちを招くとは…

龍ちゃんの話によると、化石エネルギーの無駄な消費で、環境破壊を起こし

人類の滅亡への速度が上がり、魂の昇華による知的生命体の増加による、

フォロー能力を超えたそうだ。

さらに一部の知的生命体は、その様を見て、将来性の無い地球を見捨てた。

 そんな折の今回の龍世界の剥離だ。

神が居れば「啓示」なのだが…「僕が生きてる間、兎も角、足掻いてみよう」

覚醒していく意識の中で、独りごちる。

ーーー

 町の聖堂で千人程入れるが、教皇様のおいでとの事で周囲迄あふれている。

「お止めください、教皇様」バシッバシッと杖で打つ音だけがが聞こえ、

「こいつめ、こいつめ…」なおも狂ったように打ち続ける。

打たれてるのはこの教区の司教ホルト、穏やかな人柄で、民にも好かれている、

アメスの父で第一教区で、最も教皇に近い人物とされていたが、息子に譲った。

 始まりは少し前に戻る、司教が朝のお祈りと民へ祝福を与え、ゲストである

教皇のお言葉を賜る為、壇上を降りて場所を替わり、何事も無く法話が始まった。

ブリードの話が佳境に成る頃、暫く沈黙があり、その後、突然顔つきが狂相に成り

荒々しい息遣いで、目が血走り、司教の前に駆け下りて、杖で彼を打ちだした。

観ている聴衆は突然の事で意味が解らず、悲鳴や慈悲を請う言葉が飛び交ったが、

打ち続ける凄惨さに声も出なくなり、ただ震えているしかなかった。

 「司教様が死んでしまいます、ご慈悲を!」助教が諫めるが聞く耳持たない、

司教はすでに気絶しており、打たれるたびに血は飛び散り、痙攣している、

僧衣は真っ赤、余りの有り様にたまりかね、助教が教皇を守ろうと、

二人の間に割り込むと、構わず助教を落ち据え始める。

 ここ迄に成ると、さすがに教皇を力ずくで止める事に、恐れ多いと躊躇していた

者も我慢できず、誰とは無く助けを呼びに行く

呼ばれたのが護衛の騎士で数人掛かりで、教皇を怪我をさせぬ様に引きはがし、

寝所の部屋へ軟禁となる。

話し掛ける者、全てに打ち掛かるので、手に負えないからだ。

ーーー

 騒動の起きている町の門にドナウド3世が部下の司教アルカも同伴して到着。

ダービット以下1000人の護衛騎士団は聖堂へと急ぐ「三世の予知」によるとして

昨晩アラルを出て急行してきたのだ。

予言の内容は「教皇が悪魔に乗っ取られる、その悪魔を払い救うのが我が使命」

よく言えたものである、アルカは儀式や呪法が得意で、先日は勇者召喚もした。

今回は呪いで、教皇に異常行動をとらせればよい、アルカにとっては簡単な様で

部下にやらせて、呪詛の効果を見るのと解除の為同行している。

実際成功しているのだから、真面目な方に使えばと思うのだが…

 この件、ダービットに知らされた時点で、僕に相談された、自分は遣りたくない。

如何したらよいのかと、さらに龍司様と加護を与えた神を望みたいと。

【龍ちゃん、ここの信仰の対象に成る?】心の底から可笑しいと言う思いが来る。

【我らは元は信心とは遠い存在にいた者と、思うておるが、それも一興かの、

何か得られるかもしれん、乗ってみようぞ、主の好きにやれ】

ーーー

 「ドナウド三世様だ、控えろー」

騎士団がかき分けて聖堂入口へ、ドナウドとアルカが入っていく。

中でこの町の司教が治療を受けているが、思わしくない様子だ

「大司教様、司教様をお救い下さい」「司教様を~」「お助け下さい」

町民の願う声の合唱にも大司教は仕方なく「ヒール」と掛けるが…

大司教とも在ろう者が「ヒール」とは、と感じた者も多く、効果が表れない

その様子に失望を隠しきれない。


 聖堂の前方の空中で光が溢れ出した、あまりの光量に目を瞑ってしまう。

光が溢れなくなって目を開けると、祭壇前の中空に少年が浮いていた。

倒れ込んでいる司教、助教に向かって掌を向け「ハイヒール」「クリーン」と唱え

両掌を民の向けて「エリア・ヒール」「エリア・リフレッシング」と続ける、

呪文と共に淡い光が空間を埋め尽くす。

「清々しい、心が洗われる」「長年の痛みが消えていく」賞賛の呟きが広がる

やがて光が消えた後、司教が目覚め、辺りを見回し、上半身が起き上がる。

群衆の「お~~」と喜びの声が響くなか、ホルトは思い出す

「私は打たれて…ブリード…、教皇様は如何した」

「司教様と教皇様の間で打たれていた筈が…」助教も目覚める

司祭や関係者から教皇の軟禁迄の惨事と、その後出現して二人を治療し、

民衆を癒した存在の事を知る。

改めて自分を見回し、あちこち触り、痛みも傷も無く、衣服の汚れも無い

そんな己を見つめる様子を、民衆に見つめられている事に俄かに気づき、

民衆の上で中空で留まる少年を見た。

[御機嫌ようお目覚めかいホルト、助教が間に入らねば挨拶もできなかったね]

心の声に戸惑う司教、周りの様子を窺うが、聞こえていない様だ。

少年の姿を見つめる、少年は微笑んでいたが、その姿を包むオーラが見えた。

見た事の無い蛇の様な、それでもドラゴンと解る者の力が守るのが目に焼き付いた


 長年、神に仕えた、ブリードに次の教皇にする為、大司教にと乞われた。

大司教の後は教皇であるが、ホルトは地位が上がる程失望していく、

己が求めるものと、教会が求めるものが異なるのが、鮮明に成ってくる。

 いつ頃からか忘れたが、地位もお金にも興味を失った。

人の為、皆の為に尽くせば、それなりに皆に尊敬され、慕われ大事にされる、

自然に寄付も集まりスポンサーが付き、応援の手足も集まる。

教皇に成ってまで、自分は「何をしたいのだ?、何ができるのだ」

肩書に奔走する周りを見て、自分の迷いと、アメスを試したくなった。

自分が育てた分身であるが、後継ぎと決めて以来は上を目指させる為、

本心は隠して厳しく接し、若手では異例の出世で司教に登り、

タイミングよく自分の代わりを押し付けた。

 

 自然と身体が動いて、無意識に平伏した。

涙が溢れていた、自分はこの日の為に生きてきた

「ありがとうございました、あの状況で元に戻れるとは思いませんでした」

人々も安堵し、膝立ちで両手を組み首を垂れ、先行きを見守るる。

あちこちから、呟きが聞こえる「神よ、感謝いたします」

思わず三世達も同じように傅いていたが、当初の目的を思い出して、

この状況は不味い「教皇だ、教皇を連れて来い」様もつけず騒ぎだす。

突然の安らぐ空間に響き渡る声に、周囲から不審な目を向けられるる。

 騎士達に連れて来られたフリードだが、三世達二人を見るなり走り出し、

「お前が…」ドナウドに組み付く、「召喚も奇跡も起せぬくせに…」

その二人の殴り合い、罵り合いの傍で、アルカが「カース・クリア」と

何度も空しく唱える、呪詛した本人達が唱えるのだから効果は無い。

教皇と大司教の取っ組み合い、解祖もできぬ司祭、威厳も権威も地に落ちる。

 「カース・リターン」龍司の言葉が終わると、二つの黒い影が教皇から離れ

三世とアルカに纏いつき吸収される、途端に二人が掴みあいを始める。

「ヒール」「リフレッシング」龍司に解祖され、治療された教皇。

人々は知ってしまった、まともに治療魔法も使えず、策で地位を得ようとする

その醜い本性を、その手段が邪悪で有り、頂点に有る者達がやる事では無い


 教皇に賭けられた呪いが返され、その相手が二人である事、

予知等と駆け付けた事も合わせると、彼らが仕組んだと判る。

騒然となる中、呪詛から解放されたはずのフリードが、三世とアルカに向かい

縺れ合う二人を再び杖で打ちだした「貴様らが…」

あまりの見苦しさに「エリア・スリープ」龍司の詠唱に三人が眠る。

「エリア・クリーン」「エリア・リフレッシング」酷い雰囲気も癒す

「司祭殿、軟禁と監禁でよろしいか」ダービットにうなづき任せる。

この後、如何するか考えていると、「私ではこの場を収められませんでした」

この町の司教に声を掛けられる、「ご挨拶が遅れました、ご存じと思いますが

わたしは第一教区アメスの親でホルトと申し、ここの聖堂を任されております、

長年神に仕えておりますが、聖魔法を範囲で数度も軽々と掛ける方等、

見た事がございません、教皇様でも出来ぬでしょう。

呪詛返しに、睡眠、本当に素晴らしい、背後に見た事の無いドラゴンを纏う、

貴方様は如何なるお方でしょうか?」

「ドナウド三世が勇者召喚をしたのは知ってるかい?」

「噂ですが聞いております、無用の召喚、どれ程の贄を使ったか、労しい」

「その勇者召喚に巻き込まれた、アナト王国とエーツ帝国の件は聞いてる?」

「貴方がグリフォンとドラゴンを下した方だったのですか」

「友にはしたよ」「ティムじゃ、わらわは主の物じゃ」突然のジュリさん登場

「われも主に力ずくで連れ去られた身じゃ」ドリーさん人聞きが悪いトホホ

「我らがそのドラゴンとグリフォンじゃ、外に全員でよ」

第六騎士団が夜の内に出立するのに、不信を感じてジュリとドリーは、

後を付け見張っていた様で、ティムによりジュリとは、お互いの位置がわかる、

彼女達なりの応援なのだろう。


 空に、ドラゴンとグリフォンが浮いている。

15m程の二匹が浮いて、じゃれている、火を噴き、雷を落とし、

久しぶりの本来の姿を楽しんでいる様だ。

太陽が、そして、じゃれ合う二体が陰った、全長、両翼1km程のドラゴンが

更に上空に現れた、そして心に告げる

【我はこの世界と異なる、異世界の龍神である、姿で判ろう、

名を「くらみつは」と言う、そこにおる龍司に加護を与えたものだ。

故有ってこの世界に干渉する事となった、理由は解らぬがこの世界に神が居らぬ

おぬし達が何を信じておるのか知らぬが、人が昇華した姿、人が進化した姿が

神と呼ばれる存在だろう。

神話でやっている事は何だ?、人がやっている事と異なるのは何だ?

とどのつまりこの世界を作ったとか、昼を夜を司るとか、生死や死後、生れ変り

を司る以外、人と変わらぬではないか、

親が子を産む様に、何かから神も生まれ、善悪が有り、戦い、貶め合う、

愛とか善意とか言うが、教えが違う、派閥が違うといがみ合う

元が一つの教えならば、何故解釈が変わる?。

強いて言えば、人の世より規模が大きい、世界に影響が等と言う位の事だ

あくまでも神話、人の思考で作った物語だと言う事だ】

聖堂や周囲の、あちこちで身体が光る者達が見られ、光が消えた。

【今、光った者に加護を与えた、先程の龍司の様にはいかぬが、人を思う気持ち、

奉仕の精神が有れば、スキルは伸びよう】「お~~」どよめきを抑える様に

【龍司を助けよ、仲間を助けよ、自らの為、子の為、また会う事も有ろう】

陽の光が戻り、見上げた目から涙の溢れ出る者が多数いる。

[神と言えど、一人一人迄は構えないよ、でもね大事な節目は導きが有るから

自分に自信が無ければ、仲間に相談し選択を間違えないようにね。

龍ちゃんは全体は観ているから、努力と励む事を惜しま無ければ自然に目立つ、

将来、力を与えられる者も、加護持ちも出てくるよ]

「皆、目を瞑り心に聞いてごらん」[先程の様に僕の声が聞こえるかい、

龍ちゃんと僕らと絆を結びたかい、希望するなら念じてごらん]

この町の大半が龍ちゃんのファンに成る。

 この後、ホルトを中心に新組織が立ち上がる。

神聖魔法の治療、目に見える効果が有る、しかもドラゴンの神に

ドラゴンとグリフォンを従え使徒が出現した、後に『ホルツの奇跡』と呼ばれる。

「絆を持った者同士は自然に仲間が判る、スキルも覚えやすい、今回は駄目でも

次回も有る、ズルをしないで努力だよ」皆に声を掛けていると

「龍神様は詮無いのう」「折角の見せ場なのじゃにシクシク」

人型に戻った二人は綺麗だが口が悪い、もっともだけど何も言わない

「二人共ありがとう」先にお礼は言って置く。

三人を連れて帰路に着く、教皇達三人と僕の噂は国中を駆け巡った。

N O1と2のスキャンダルである、今後の事も含め国中が大騒動だ。


 道中複数の暗殺集団と出会うが、潜伏位置をダービットに知らせ潰して進む。

龍司が自分達に向けられる悪意で位置を掴む、ダービットの一団が包囲し、

ドラゴンとグリフォンが唸れば、歯向かう気力も失せる。

 無事にアラル神都に着いて、大司教達が会議を開き、状況の説明がなされていく

「教皇様はホルト殿と助教殿を半死半生の状態にし、諫める者にも手を出した。

ドナウド三世とアルカによる呪術だとしても、その行為は衆人の前でであり

権威を失意させたと言っても過言ではなく、呪詛返し後にも同様の行為をしている

なおかつホルト殿達への謝罪も未だに無い事も付け加える」ダービットの証言。

「今回の件、勇者召喚の件共ドナウド三世とアルカの二人が成したもので、

謀反と同義であり極刑は免れない。

現在呪詛返しで、呪詛状態に有るが、解祖後極刑が望ましい」ホルトは続ける


 「あの場に龍司様が現れなければ、私の命も助教の命も絶え、

ドナウド三世が教皇に着き、アルカが第6司教だったろう、

フリード教皇は悪魔付きで幽閉か断罪、アメスも解任だっただろう。

さらに今日の帰路中に何度襲われた事か、それでも帰って来られた理由が有るが、

その前に、もし企みが成功していても、この帰路の間に殺されただろう、

さらにこの様に解決していても、ここに着けたのはこの内の何人だったか。

帰路に居たのは、ここの大司教の身内だけではなく、なぜか神国の周りの国々も

待ち伏せていた、そうバレバレの陰謀、周りに利用される内乱狙い、

それを知って実感した。

神が尊いもので、皆が守るべきものなら、これ程つけ入られて、脆くはあるまい

 奇跡もなく、信じる事も導くことも無く、今までの信仰とは何だったのだ?

見せて貰い、納得すれば信じられる、今すぐでなくても信じる事は出来る

わたしとダービットが提案する、この神都アラルの空にドラゴンを呼び主の

龍司様に仕えたい、龍神くらみつは様を奉りたい」

アメスはホルトの言葉に驚愕した、宗教なんぞ金儲けと嘯く親父が

信仰と口にし、あの実直と言われるダービットと二人で押す等と…

信仰が事実であったとしても、教会の体制は危機的状態である、

落ちた旗頭では、騎士団が健在でも、近隣諸国とは戦えない。

現状この場を仕切っているのはホルトであり、大司教と言えアメスに人望が無い

第二教区大司教は真っ青だ、意味する事は一つしかない「暗殺団」を送った。

 大司教の半分は獣人であり、ドラゴンを従えるとの言葉だけで顔色が悪い

獣人にとって人の神など信じられない、大司教は建て前の役職である

人と獣人が対等と言う為のものだ、したがって教皇の言葉と派閥が仕切っている。

獣人の王であるドラゴンを従える者が上に立つ、今まで以上に厄介と感じている。

だが、結局ホルトの押しで、市民に周知させるべく2日の間を開ける事と成った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る