第10話 地震の意味

 12日朝、夕子は監視室に急ぐ、理由は地震。

警備会社をやっており、契約先に多数の監視カメラを設置、

ネットワークで監視要務活動等を行っている。

地震による被害を画像で確認しに来たのだが、「社長これ」

監視室入ると同時に、監視主任に呼びかけられた。

 「坊の所の1台に事故が映ってます、駐在への連絡と、

呼びに行かせる所でした、見ててください」

カメラが映しているのは坂の側面、龍司がカメラの方から

坂の方に向かう後姿が有る、ゆっくり坂へ近づいていく、

「坊が坂の下に着いたら、車がここから出てきます」

「でましたね、一旦止めてナンバー控えます、…それでは

ここからスローモーションで再生します、車が坊の指先の

1m程に来た時の状況の確認を」まさに指先に迫る所で、

画面が小刻みにブレ出した、見えない接触面から光が漏れ

ブレが最大と思われる時、光が爆発した。

まばゆい画面が数秒で引いて行き、視界が戻った時そこに

車の正面が吹き飛ばされ、前半分が焼失し、バラバラになって焼けた車と

四人の痕跡が残る車が、坂の上部迄戻されていたのだ。

一番の異常は龍司が居なかった、痕跡も無い。


 まさかと思い「このブレが地震の発生時間と重なる?」

「確認済みです、正に言われる通り、震源地もこの付近」

「コピー、何本かしといて、警察からの要請があるから

とりあえず一本欲しい、本家で見せる」

作業を待ちながら電話を始める


 「竜三さん、今ビデオ見たの龍司が渡った。

交通事故で押し潰される寸前、力が働いて車を破壊して

生きたままで渡ったみたい。

車と衝突する寸前で数十秒、カメラもブレ続けたわ、それが地震と思われるの、

震源地もここ山都付近直下。

光の爆発が有って車が押し戻されているの、車がよ、その時、壁が出来たと思うの

理不尽な話なのに腑に落ちるのよ、事故映像のコピーができ次第そっちにいくわ」

ーーー

 竜三は久しぶりにノンビリ過ごしている。

盆休みで製材所も閉めて、市議会も無く、農協関連の集まりも無く、

久しぶりの瞑想と竹刀を振っていた時、携帯で夕子からの連絡を受ける。

竜三も夕子の見解を良しとした、一の言である。

一の言

沸いた言葉、閃き、夢、成すべきと感じたら成せ、考えるな

成する時、焦るな、惜しむな、やめるな、されば、報われる

 全て道を示すものだから信じろと言うのだ。

一般の人に教えて、当たれば気味悪がられ、

外れれば馬鹿にされる、なので次の言も有る

二の言

報われぬ日々、時長くも、歩み続けよ、頸木が取れるまで

この地で我ら人に非ず、故に抗うな、渡れる時その日まで

 口伝で伝えられたが、医学の発達で事実が、一部裏付けされいる、

”人に非ず”であり、医学的に進化が異なっている、としか言えない。

 身体的特徴

小脳、中脳が発達して通所の二倍は有る(腫瘍と誤診される)

心臓が大きく謎部分がある(心肥大と硬化症)

血管壁が四層(通常三層、普通に診察では解らない)

皮膚の感触は変わらないが弾力と伸びが有る

多指症(六本・の確率が高い)

 現在この辺り迄、判明されている。

竜三の先代との努力で、同族の医者を育て、異なる部位を確認、

疑われる状態を調べ、モルモットにされぬ様に、二の言の意味を同類に流して、

癌や異常ではない種族的特性であり、病気と言われて迷わぬ様にと配慮をしたのだ。


 その努力が、今実った、この壁の中は闇の一族のみ。

理は分からぬが、俗に言う”世間”が、一族の基準の世間に成った。

ーーー

 夕子の電話を受けて、長老会を招集しようと、受話器を持ち相手の番号を

打ち込みだした時、[竜三呼んだか]と声が聞こえた。

「虎一か?」「…」受話器を置いて[虎一念話で話せるのか?]

[今呼ばれた、そんな気がして返事した]

[辰影を呼んでみよう]「同時に呼ぶぞ」

[いきなり二人で煩い]辰影より二人が驚く

[両方聞こえるのか]竜三の言葉に

[ああ、行き成り呼ばれてタバコ落としそうになったって、

おいなんだ、電話じゃないぞ]念話と気づき慌てている。

「ああ、夕子から電話でな…」内容と見解を話してると

「あら、長老会なの」「ヨネさんも聞こえたか、春樹は」

[居るわよ][慎太郎は?]「…」「ダメね」

[よし、長老会は慎太郎の家に集合]

挨拶もそこそこ移動が始まる

ーーー

 12日地震直前の山都駅に2両編成の電車が入って来る

「遅れております9時10分発下り…」アナウンスと共にドアが開き、

客が降りてくる、入れ替わり、乗る客が…、

揺れがきた、遅れの電車の中年夫婦がホームに降りる、

それ迄待ってやったとばかりに、揺れ出した。

かなりの時間揺れて、「ドーン」花火の様に最後に一発でかい音と共に

揺れが嘘の様に引いた。

 

 揺れの割に被害は無かった様だ、宗二が周囲を見回た範囲には被害も無く、

怪我人も見当たらない。

七菜香が竜四と龍司に電話を入れている、竜四は確認、竜司には繋がらなかった。

「明日着くのかな、何処うろついているのやら」

「性格的にも、この3年近く期待も信頼も裏切らないできた子だよ、心配ないよ」

切符を改札の入れ物に入れ、駅舎を出てタクシーを探す、無人駅で寂れ、客は少い。


 「お客さーん」周りに人は居ない、タクシーが傍に停車。

「信じられん事が起こりまして、確認に付き合って下さい、確認は多い方がいい、

奥さんもお願いします」言われるまま乗車する。

駅前を西へ、県道16号を高郷方面にむかう、常磐線のトンネルが有る付近だろ、

数人の人が佇んでいた。


 運転手も宗二夫婦も異変を感じられない。

「中から外へ出られますよね」運転手が宗二夫婦を指し話し掛ける、

「ああ、何も感じない、七菜香はどうだった?」

「私も特に気に成る感じはしないわよ」

「あの方達が壁が有ると言うんですが、私だけ何も無いのです。

それに、壁とやらを超えると、壁とやらの向うに戻されるんです」

「戻される?」「マジックの様に座席から消えて、壁向うに出現です」

「壁何処にあります?」一人が手を伸ばし確認して指さす、

宗二と七菜香は指さされた先を触るが、何も無いし、見えない。

壁に最も近い人に壁向うから、掌を当ててもらい、壁のこちらから掌をあてる。

こちらの壁内の三人は、相手の掌の感触も体温もはっきり判るが

向うの人は壁の感触のみで、三人が変っても壁の感じは変化しないそうだ。


 不思議そうにする宗二達に、苛立ちを覚えた様で、

少し興奮気味の数人に、この付近の者かを聞いた、一人を除いて隣町で車で来たが

車ごと入れず、山都出身の人を送って来て困っていた様だ。

そこに山都に向かう空車のタクシーが来たので乗せたが、壁内に入ると戻される、

何度やっても戻されるので、宗二たちに確認依頼をしに来た。

場の雰囲気が悪く成る、お願いして山都の人を乗せて試すことにした。


 Uターンし始めて、壁を越えたと思われる付近で車外へ強制排除。

マジックショーなら拍手喝采ものだが、座った格好で出されて尻餅、

その様子を見ていた数人は、不機嫌な顔に成る、

尻餅をついた人は数度の事で痛いのだろう、悪態をつき出した。

運転手に小声で聞く「あんた闇の一族だよね」頷く

「このまま戻るよ」と伝え、道路際の人に大声で

「警察に連絡しますから、少しお待ちを」と声を掛けて走り去る。

途中、運転手に闇の一族には、壁の異常事態は起こらないと予測を伝え、

駐在迄走ってもらい、本署への連絡とドラブルの予感も伝える様に頼んた。

自分は竜三に電話を始め、同じく七菜香も夕子にかけ始める。

ーーー

 12日朝、慎太郎邸、「地震が有ったと思えば、お揃いで何事です?」

訪れたメンバーを見て「長老会ですか、それも何故うちでですか?」

「まず、これを見てからモノを言え」コピー画像が始まる、

慎太郎は息を吞む、余りに生生しい。

「これどう見た?」「長老方はいかに…」

「質問を質問で返すな」


 緊張の場に電話が入る、二本も、慎太郎はこの隙に熟考

意見を纏める、国会議員に成って先生、先生と持て囃されても、

族長の竜三には頭が上がらず、この歳になっても苦手である。

改めて、電話の様子を見回すと、長老達が男達は竜三の、

女達は夕子の会話を、自分も聞いている様な動きに見える訝しんでると、

電話が終わり目と目が合う。

 「聞こえぬか?」「何がでしょう」

「念話じゃよ」「…」やはり、さっきの様子は念話で聞こえている。

「長老は全員、念話で会話ができる、しかも相手制限を付けれる、

今朝の地震後、儂が虎一に電話しようとしたら、捻話が通じて「読んだか」

と頭に響き、後に、この場の全員と捻話の検証と確認をした」

「お主にも呼び掛けたが、まだ通じぬ様だ」

「念話…」…

 「して答えは」鋭い視線で問われる。

「龍司は超能力で車から身を守り、光で反撃して何れかに渡った、でしょうか」

臆しながらの答えに「正解じゃ、我らも同じ答えに行きついた、するべき事が

済み次第、数日で帰って来よう」

怒られずに済んだと、安堵の慎太郎に追い打ちが掛かる

「今の二つの電話は宗二と七菜香で、駅で異変に応た、範囲は解らぬが、

先程見たの龍司の壁と同じ物ができた様だ。

一族には全く何の影響も無いが、余人は出入りできん、しかも、一族以外の住民が

壁の力で強制排除された、との見解つきだ」

「住民の復帰はできるので?」

「試みたが出来ぬ様だ」

「揉める…」慎太郎は無意識に呟いた

「緊急事態宣言じゃ、お主と儂の名で出すぞ良いか?」

「それが良いでしょう、官邸に連絡入れます」

「我も喜多方と県に連絡しよう、まあ、理解できた頃は手遅れだろうがな、

アリバイ作りだ」

この後も長老達の話し合いは続く

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